「知財管理」誌
Vol.72 記事詳細
掲載巻(発行年) / 号 / 頁 | 72巻(2022年) / 3号 / 303頁 |
論文区分 | 論説 |
論文名 | Wyeth第二事件からみる 中国商標権侵害訴訟における懲罰的賠償 |
著者 | 岩井智子 |
抄録 | 米国医薬品大手Wyeth(以下「米国ワイス」という)が、ファイザーに買収されたのが2009年、それから十年以上が経過し医薬品やワクチン事業における「Wyeth1)」のグッドウィルは名実共に「Pfizer」に呑み込まれた。一方で、米国ワイスは乳幼児用調製粉乳のパイオニア企業でもあり、かかるニュートリション事業は、2012年に食品大手ネスレが買収し、粉ミルクの著名ブランドとして多くの国でネスレ傘下での事業が展開されている2)。 本稿で取り上げるWyeth第二事件は、かかる「Wyeth(惠氏)」ブランド3)を巡り、組織的に商標権侵害を続けてきた中国法人らを被告とする商標権侵害訴訟である。米国ワイスと中国現地法人が原告となり、同一組織に対し広東省で提起されたWyeth第一事件は侵害論を中心として最高人民法院まで争われたが、浙江省で争われた第二事件は損害論、特に損害額の基準と懲罰的賠償の適否が主な争点となり、一審及び控訴審ともに3,055万元(約5.4億円)の高額賠償が認められた。2021年の新たな司法解釈施行後すぐの先駆的事例であり、要件としての「故意(悪意)性」や「情状の重大性」の解釈、補填的賠償と懲罰的賠償の関係性、倍数の捉え方等について示唆的な判断が下された。 |