国際活動

WIPO-SCP (Standing Committee on the Law of Patents) 35th sessionへの参加

 2023年10月16日〜20日、スイス・ジュネーブで開催された世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization: WIPO)の第35回特許法常設委員会(Standing Committee on the Law of Patents: SCP)会合に、医薬・バイオテクノロジー委員会から里山雅也委員長及び白木良太委員長代理が参加しました。

 世界各国の政府機関(特に知財関係機関)代表者がメンバーとして、認定された政府間機関や非政府組織等からの代表がオブザーバーとして、かつては年2回会議が行われていましたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、2020年以降は年1回、Hybrid開催(現地参加とWeb経由参加)の形式で開催されています。2020年から昨年までは、JIPAからもWeb経由での参加でしたが、ステートメント発出によるJIPAのプレゼンスをより発揮するため、今回は約4年ぶりにジュネーブでの現地参加となりました。

 SCP会合は、「特許権の例外及び制限」、「特許の質(異議申立制度を含む)」、「特許と健康」、「特許アドバイザーと顧客とのコミュニケーションの秘密保持」及び「技術移転」の5セッションからなり、各セッションにおいて、議論や情報共有が進められております。特に、「特許と健康」のセッションにおいては、医薬・バイオテクノロジー分野の課題として、途上国側から主張される医薬品アクセス(Access to Medicines)の問題(特許が医薬品アクセスの障害となっているかどうかの議論)があります。

 JIPAは世界最大級の知財ユーザー団体として、これまで日本製薬工業協会(製薬協)と連名でイノベーション誘発のための知財制度の重要性、医薬品アクセスの問題と知財制度の非関連性及び国内製薬企業の医薬品アクセス向上の具体的な取り組みを主張するステートメント(意見表明)を作成し、「特許と健康」のセッションにおいて、ステートメントを発表してきました。今回もこれまでと同様に、JIPAは製薬協と連名でステートメントを作成し、事前に国際製薬団体連合会や日本国特許庁とも相談の上、会議に参加しました。

 以下、2日目午前、3日目にかけて議論された「特許と健康」のセッションについて報告します。このセッションでは、メンバーの一般的な意見を表明するgeneral statementに続いて、1)公衆がアクセス可能なデータベースに関する定例のアップデート、2) 強制的、自発的なライセンスを含む、COVID-19の診断、予防、治療に関する医療技術のライセンスに関する情報共有が議論されました。

 まず、general statementでは、地域代表のアフリカグループ、先進国メンバーが中心のグループB、CEBSグループ(Central European and Baltic States Group)、中国、EU等から、上記課題に関する資料のアップデート及びそれぞれのプレゼンテーションに対する期待とサポートが表明されました。

 続いて、各国代表及びオブザーバーが意見を表明し、JIPAもオブザーバーとしてステートメントを発表しました。JIPAステートメントでは、COVID-19パンデミック前からの技術蓄積により世界中の人々にワクチンや治療薬を提供できたこと、革新的な治療薬の開発は成功の可能性が低く、莫大な投資、長期の時間、パートナーとの協力を要するところ、それらは特許制度に裏付けられた強いインセンティブによって可能となり、世界中に医薬品を届ける妨げとなっている要因は特許制度ではなく、規制の問題やサプライチェーンの問題等他の要因であることを述べるとともに、国内製薬企業がグローバルなパートナーシップを通じて発明に基づいて積極的に開発した技術や製品を使ってグローバルヘルスに貢献している例を二つ紹介しました。

 一つ目の議題である、公衆がアクセス可能なデータベースに関する定例のアップデートについては、WIPO事務局よりアップデート文書の紹介(SCP35/9)がありました。かかる文書では過去4回のSCPにおいて紹介された、Pat-INFORMEDやMedsPal等公衆がアクセス可能なデータベースに関する情報が記載されています。

 本議題について、多くの各国代表及びオブザーバーからgeneral statementを含め各種データベースへの期待とサポートが表明された一方、一部の団体からは情報の正確性を担保する仕組みが欠けているとの意見が表明されました。

 二つ目の議題である、強制的、自発的なライセンスを含む、COVID-19の診断、予防、治療に関する医療技術のライセンスに関する情報共有については、どの参加メンバー国からも提案はありませんでした。

 次回の第36回SCPにおける「特許と健康」のセッションでは、第37回と連続して、 公衆がアクセス可能な、医薬品とワクチンに関する特許情報のデータベースのアップデートと、データ提供者を招いての、データベースの利用に関するメンバー国の情報共有セッションが予定されています。また、COVID-19に関する経験から、メンバー国が受領した情報に基づいて、文書SCP/26/5(開発途上国および後発開発途上国が特許の柔軟性を最大限に活用する際に直面する制約と、それらの国々における公衆衛生目的の特に必須医薬品への手頃な価格のアクセスへの影響)の更新を事務局が行う予定です。

 JIPAはこれからも知財ユーザー団体の貴重な意見を世界に向けて発信していきます。

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