国際活動

WIPO マドリッド作業部会(第20回)への現地及びオンライン参加

  • 会議場風景(ジュネーブWIPO本部)
 2022年11月7日(月)〜11日(金)、標章の国際登録に関するマドリッド制度の法的発展に関する作業部会第20回会合(以下、マドリッド作業部会)がジュネーブ(スイス)のWIPO本部にて開催されました。マドリッド作業部会は年に一度開催される国際会議で、国際商標登録制度に関するマドリッド協定議定書や同共通規則に関する課題の共有・規則改定等についての検討・議論が行われます。
 今回も昨年と同様に、COVID-19の影響を受けてオンラインとオフラインのハイブリッド方式での開催となり、マドリッド協定議定書加盟国のうち79カ国及び非加盟国7カ国の政府代表団や、2国際機関及び15商標関連の国際オブザーバー団体が会議に参加しました。日本からは、特許庁国際政策課の担当者らが現地で参加し、オブザーバーとして日本弁理士会、日本商標協会および日本知的財産協会(以下、JIPA)が参加しました。JIPAからは商標委員会の齋藤委員長(セコム)、齋藤(充)副委員長(SUBARU)、藤井副委員長(バンダイ)、藤本副委員長(DGホールディングス)、山下副委員長(ダイキン工業)の5名がPosition Paperの取りまとめのうえ、藤井副委員長、藤本副委員長が現地で、残りのメンバーはそれぞれの自宅からオンラインで会議に参加しました。
(Position PaperはWIPOホームページをご覧ください:https://www.wipo.int/meetings/en/details.jsp?meeting_id=72888)。
  • 現地参加JIPAメンバー
  • オンライン参加JIPAメンバー
 本年度は、「マドリッド制度の新ガイド」、「標章の国際登録に関するマドリッド協定に関する議定書に基づく規則の改正案」、「暫定拒絶」、「暫定拒絶の応答期限とその算定方法の情報更新」、「マドリッド制度の進化のための最新ロードマップ」、「従属性」、「標章の国際登録に関するマドリッド協定の議定書第6条を改正するための外交会議の開催可能性について」「マドリッド制度への新言語導入」及び「ラウンドテーブル」が議題に挙がり、いくつかの議題に対し会議上でJIPAから意見発信を行いました。JIPAから述べた意見の概要は次のとおりです。
  1. 標章の国際登録に関するマドリッド協定に関する議定書に基づく規則の改正案から標準文字の統一化
     現在、マドリッド制度では出願人が標準文字による出願を希望する場合、その旨を願書で宣言することが義務づけられていますが、これを義務ではなくオプションに変更する規則改正の提案が国際事務局からなされました。
     JIPAからは、「指定国ごとに判断が異なることで、望まぬ態様での登録や権利範囲が不明確になる、マドプロ代替の利用が拒絶されるなど、現実にユーザー側に影響が出ている。マドプロの利点のひとつである代替の利用が阻害されることは、マドリッド制度にとってもマイナスである。標準文字制度は商標見本の準備が不要であり出願人の負担を減らすのみならず、指定国官庁においても事務処理の効率化に資することから、指定国の判断の独立性を尊重しつつも積極的な活用を促進するべく、ハーモナイズを進める方向で議論が深まることを望む」旨を発言しました。
     本議題の議論の結果として、標準文字の宣言を義務からオプションに変更する規則改正は合意され、2024年11月1日発効の見込みとなりました。
     今後は、標準文字宣言の性質の明確化も含め、今回合意できなかった案について、議論を継続することになります(下線部:JIPAの発言に影響を受けたと思われる事項)。
  2. 暫定拒絶
     現在、マドリッド制度では暫定拒絶の応答期間の最短期限は定義されておらず、各指定国官庁が指定した応答期間が運用されていますが、暫定拒絶の応答期間を最短2カ月とする規則の改正及び各指定国官庁による期限の開始日・終了日の明示義務、並びに改正規則の施行の猶予期間の提案が国際事務局からなされました。
     JIPAからは、「暫定拒絶の応答期間の最短期限を2カ月とする規則案に賛成し、導入の遅延期限として提案された2025年2月1日を待たずに各国官庁が早期に運用を開始することを希望する。また、利用者の負担を軽減するために、起算日を各国官庁が拒絶通知を発行した日はなく国際事務局(IB)が権利者へ通知を送付する日に統一することを再度検討すべきである」旨を発言しました。
     本議題の議論の結果として、暫定拒絶の応答期間は最短2カ月とし、応答期間を最低2カ月とする改正後の規則の施行は2025年2月1日までの猶予期間が与えられる。また、猶予期間満了までに国内法整備等の導入準備を完了できない国は、2025年2月1日までにIBに対して対応完了日を記載した通知の発行が必要となりました。
     今後は、猶予期間内に完了できないとIBに通知した国について、施行日の追跡確認を行うことになります。
  3. 従属性
     現在、マドリッド制度では、国際登録日から5年以内に基礎出願・登録が縮減、拒絶、無効となった場合(セントラルアタック)、それに連動して国際登録の一部または全部が取り消されるものと定められています。そのような基礎商標への従属性が、基礎商標の維持費用増加や国際登録の法的不確実性の原因となっているとの声が挙がっていることから、マドプロ作業部会では継続的に本制度の改善が検討がされています。
     今年度は、国際事務局から、従属期間を5年から3年に減少させる議定書改正を外交会議を開催することなく実現する方法について5つの案が提示されました。
     JIPAからは、「従属期間が終了した悪意の国際登録に対しては正当な権利者は各指定国で取消・無効手続きが必要であることに鑑み、単に従属期間を減少または廃止するだけでは制度のバランスに懸念がある。従属性を弱める一方でカウンターバランスの検討を希望する。JIPAからのアイデアとしてIBにおける国際登録の取消・無効手続きの導入を提案する」旨を発言しました。
     本議題は、次回作業部会にて継続審議となり、マドプロ作業部会で討議するために他の選択肢について、マドプロ加盟国、WIPO加盟国、オブザーバー団体からの提案を促すこととなりました(下線部:JIPAの発言に影響を受けたと思われる事項)。
     今後は、JIPA提案や他の選択肢も含め、議論を継続することになります。
  4. マドリッド制度への新言語導入
     現在、英語、フランス語、スペイン語が、マドリッド制度の作業言語として採用されていますが、中国語、ロシア語及びアラビア語をこれに追加するべきという提案が中国、ロシア語圏各国代表団及びアラビア語圏各国代表団からあり、国際事務局より、当該3言語を作業言語として導入する提案がなされました。
     JIPAからは、「1) 新言語導入の意義について、コンセンサスを形成すること、2) ユーザーの負担軽減のために、国際出願料金の値上げを伴わずに全包袋の英語翻訳を提供し、かつ当該英訳版を正本と同等の効果を有するものとして取り扱う旨を定めること、3) 導入後に多発することが予想される冒認出願の防止策及び影響を検討すること、について、再度検討を実施すべきである。また、JIPAは作業部会との協議を歓迎する」旨を発言しました。
     本議題は、次回作業部会にて継続審議となり、下記3点について議論を行った旨の報告のみとなりました。
    1. A) 提案に含まれていた、マドリッド作業言語への新言語の導入の費用と技術的実施可能性及び他の関連する情報について承認する
    2. B) 国際事務局に第19回の提案書38段落目(マドリッド用語DB、機械翻訳等)について各国官庁及びWIPO加盟国、オブザーバー団体との協議会の開催を継続して行うことを要求する
    3. C) 国際事務局へ前述の協議会を考慮した上で第19回の提案書39から60段落目(マドリッド用語DB強化詳細)について前進させるための提案書の準備を要求する
      (下線部:JIPAの発言に影響を受けたと思われる事項)
     今後は、各国官庁及びWIPO加盟国、オブザーバー団体との協議会の開催を含め、手続言語の新規追加について議論を継続することになります。

 次回の作業部会の議題は、標準文字宣言の性質の明確化について、従属性の緩和について、新言語導入について等を予定しています。いずれも、日本ユーザーの関心が高い議題ですので、本作業部会にJIPAから委員を継続派遣し、日本ユーザーの意見を引き続き表明して参ります。
  • WIPOの活動報告の様子
  • 11/10のWIPOツアー風景
  • 休憩時間を利用して活発に意見交換がされている様子

以上

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