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WIPO-SCP (Standing Committee of the Law of Patents) 25th sessionへの参加

 2016年12月12日〜15日、スイス・ジュネーブで開催されたWIPO第25回Standing Committee on the Law of Patents(SCP:特許法常設委員会)会合に、医薬バイオテクノロジー委員会から新保 雅士 氏(委員長)を派遣しました。

 この委員会は、特許法の国際的な発展に関して、先進国と途上国が会して問題を議論したり、連携を進めたり、指針を与えたりするために、1998年に創設されたものです。最近は年2回開催され、世界各国の政府機関代表者、並びにオブザーバーとしてNGO等からの代表者が参加して議論が行われています。JIPAは発言権をもつ公式オブザーバーです。

 WIPO-SCPでは昨年から「Exceptions and limitations to patent rights(特許権の例外と制限)」、「Quality of patents, including opposition systems(特許の質)」、「Patents and health(特許と健康)」、「Confidentiality of communications between clients and their patent advisors(クライアントと特許アドバイザー間の秘密保持)」および「Transfer of technology(技術移転)」の5つの主議題と1979年に作成されたWIPO Model Lawの改訂要否について議論が行われていますが、特に新興国側からは医薬品に関する特許制度に対して厳しい意見が出ております。また、2016年9月にAccess To Medicinesに関する国連ハイレベルパネルのレポート(※関連リンク)が発表され、新興国における医薬品の欠如を改善するために、WTOメンバーによるTRIPS flexibility(自由な特許性基準設定、強制実施権など)の最大限活用、公共資金を得ている大学や研究機関によるpublic healthへの取り組み向上、およびR&D費用、医薬品価格並びに医薬関連特許情報の透明化などが提案されました。そのため、新興国側から今まで以上に厳しい要望が出ることが予想されたため、引き続き、医薬・バイオテクノロジー委員会から代表を派遣し、対応しました。特に新薬創出における特許制度の重要性や医薬品産業界のAccess to Medicineに関する取り組みを必要に応じて表明できるように、日本製薬工業協会(製薬協)および国際製薬団体連合会(IFPMA)と連携してステートメント(意見表明)案を作成し、参加前に日本国特許庁とも相談し、会議に参加致しました。

 前回に引き続き、ルーマニア特許庁長官が議長となり、4日間の議論がスタートしました。特に先進国側と新興国側で意見が大きく対立している以下の2つの議題について報告いたします。

(1)特許の質に関する議論:
 先進国側は以前から、特許審査ハイウェイ(PPH: Patent Prosecution Highway)などのWork Sharingが特許の質の向上に有効であると主張しています。一方の新興国側は、審査官の数が少ない新興国では他国の審査結果をレビューするHuman Resourceが足りず、Work Sharingは機能しないと反論すると共に、開示十分性の強化、化合物特許のマーカッシュクレームの無効などを主張しており、コンセンサスを得るには至っておりません。また、UK、ルーマニア、EPO、スペイン、日本、ポルトガルから自国の進歩性の判断基準や事例の紹介がありました。

(2)特許と健康に関する議論:
新興国側はTRIPS flexibilityの最大活用が重要であり、国連ハイレベルパネルのレポートの目的や提案を次回のWIPO-SCPで共有すべきであると主張していました。一方の先進国側は、国連ハイレベルパネルレポートは狭い範囲にフォーカスしており、すべての関連factorsを考慮していないことやMember statesの意見が入っておらず、endorseされていないことを理由にWIPO-SCPの議論のリファレンスにすべきではないと反論すると共に、public healthのためにはTRIPS flexibilityと知財によるR&D活動へのインセンティブとのバランスが必要であること、Access To Medicineの向上には多くのファクターが関与していることなどを主張していました。また、JIPAからも先進国側の意見をサポートするために準備していたステートメントを出しました。具体的には、特許制度は新興国および先進国の両方における医薬品の開発促進のために重要であることを主張すると共に、日本の製薬企業が新興国におけるAccess To Medicine向上のために取り組んでいる事例(WIPO Re:Search活動、WHOが非常事態宣言したジカ熱に対するワクチン開発、新興国におけるパテントプールを活用したHIV治療薬のロイヤルティフリーでの提供、新興国における下痢治療薬の開発)を紹介しました。

 最終日にFuture Workについて議論が行われましたが、特に特許と健康に関する新興国と先進国の考え方に大きな隔たりがあり、Future Workが決まらないという結果となりました。特許と健康に関しては特に時間をかけて議論し続ける必要があると感じました。

 今回の会合でも先進国側のNGOとして、事前に日本国特許庁、製薬協等と協働しながら準備を行い、ステートメントを表明することができたことは大きな成果になりましたが、引き続き、日本の製薬企業が新興国における新薬開発とAccess to Medicineの課題に誠実に取り組んでいることを紹介しながら、医薬品に対する適正な特許保護を求めて行く必要があると思います。

 写真は日本国特許庁を含めた日本政府代表団(前列3名)とのものです。(筆者は後列の右端)

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[Update 2016-12-15 ]