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WIPO-SCP (Standing Committee on the Low of Patents) 24th sessionへの参加

 2016年6月27日〜30日、スイス・ジュネーブで開催されたWIPO第24回Standing Committee on the Law of Patents(SCP:特許法常設委員会)会合に、医薬・バイオテクノロジー委員会から新保 雅士 氏(委員長)、森田 健一 氏(委員長代理)の2名を派遣しました。

 WIPO-SCPは、特許法の国際的な発展に関して、先進国と途上国が会して問題を議論したり、連携を進めたり、指針を与えたりするために、1998年に創設されたものです。昨年から年1回から年2回開催に変更され、世界各国の政府機関代表者、並びにオブザーバーとしてNGO等からの代表者が参加して議論が行われています。JIPAは発言権をもつ公式オブザーバーです。

 WIPO-SCPでは昨年から「Exceptions and limitations to patent rights(特許権の例外と制限)」、「Quality of patents, including opposition systems(特許の質)」、「Patents and health(特許と健康)」、「Confidentiality of communications between clients and their patent advisors(クライアントと特許アドバイザー間の秘密保持)」および「Transfer of technology(技術移転)」の5つの主議題と1979年に作成されたWIPO Model Lawの改訂要否について議論が行われています。今回の会合でも、途上国側から医薬品に関する特許制度に対して厳しい意見が出ることが予想されたため、引き続き、医薬・バイオテクノロジー委員会から代表を派遣し、対応しました。特に新薬創出における特許制度の重要性や医薬品産業界のAccess to Medicineに関する取り組みを必要に応じて意見表明できるように、日本製薬工業協会(製薬協)および国際製薬団体連合会(IFPMA)と連携してステートメント(意見表明)案を作成し、参加前に日本国特許庁とも相談し、会合に参加致しました。

 昨年に引き続き、ルーマニア特許庁長官が議長となり、ガリー事務総長の開会の挨拶の後、4日間の議論がスタートしました。途上国側はこれまでと同様に、「TRIPSにおいてpublic interestのためにpatent flexibilityが認められている」、「途上国における適正な価格での医薬品の普及が特許によって妨げられている」、「特許とpublic interestとのバランスが重要である」、「医薬品に関する明細書の開示が不十分である」等を根拠理由として、「特許権の例外と制限」、「特許の質」、「特許と健康」および「技術移転」のセッションにおいて、「特許権の制限・例外、強制実施権、Government Use等が認められるべきである」、「医薬品の有効成分のINN(国際一般名称)を出願明細書に開示すべきである」、「化合物の広いマーカッシュクレーム(一般式を用いて特定した化合物クレーム)が開示十分性を満たしておらず途上国への技術移転を阻害している」等の主張をしていました。

 一方、先進国側は米国政府代表を中心として、「医薬品のR&D活動へのインセンティブのために特許制度が重要である」との意見表明があり、JIPAからも先進国側の意見をサポートするために準備していたステートメントを「特許と健康」のセッションにおいて発表しました。具体的には、「優れた医薬品を世界中の患者に提供することが先進国と途上国両方のミッションであり、両国が協力して実現しなければいけないこと」、「世界の製薬企業がこれまでに数多くの医薬品創出に貢献してきたこと(PhRMA, “Medicines in Development”, PhRMA, 2015.)」、「強い特許保護が先進国と途上国における新薬発売のスピードを加速化したこと(Lanjouw, J.O., Patents, Price Controls and Access to New Drugs: How Policy Affects Global Market Entry (2005), available at: http://www.nber.org/papers/w11321.およびCockburn, I.A., Lanjouw, J.O. and Schankerman, M., Patents and the Global Diffusion of New Drugs (2014), available at:http://nber.org/papers/w20492.)」、「日本の製薬企業が新興国における顧みられない病気(Neglected Disease)に対する医薬品開発に取り組んでいること」、「日本の製薬企業が途上国におけるAccess to Medicineを促進するために、必要とされる医薬品を購入しやすい価格で供給するアフォーダブル・プライシング(affordable pricing)や患者の所得水準に応じて全額負担から無償まで複数の負担価格を設定するティアードプライシング(Tiered Pricing)を導入していること」、「大きな経済的課題がある国において特許出願および特許権の行使を行わないことを基本的な考え方としていること」、「INNの出願明細書への開示の必要性をもっと議論すべきであり、開示の義務を出願人に課すべきではないこと」等を発表し、先進国側の主張をサポートしました。
 しかしながら、2015年から国連のHigh-Level Panelでも特許制度とAccess to Medicineについて議論されており(http://www.unsgaccessmeds.org/new-page/)、途上国側の主張は衰える気配はなく、今回の会合最終日に過去に類を見ない穏便な形でまとめられたFuture Workの「特許と健康」の項目に、「public healthを促進するための各国におけるhealth-related patent flexibilityの事例共有」、「patent flexibilityを活用することにおいて途上国が直面している制約の調査」、「明細書におけるINN開示のfeasibilityに関するさらなる議論」が盛り込まれました。

 今回の会合でも先進国側のNGOとして、事前に日本国特許庁、製薬協等と協働しながら準備を行い、途上国側の発言が多い中、ステートメントを表明することができたことは大きな成果になりましたが、引き続き、日本の医薬品産業界が途上国における新薬開発とAccess to Medicineの課題に誠実に取り組んでいるファクトを紹介しながら、医薬品に対する適正な特許保護を求めて行く必要があると思います。

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[Update 2016-07-06 ]