「知財管理」誌

Vol.47 記事詳細

掲載巻(発行年) / 号 / 頁 47巻(1997年) / 10号 / 1405頁
論文区分 論説
論文名 米国における審査経過禁反言と日本における包袋禁反言、意識的除外及び意識的限定
著者 三枝英二
抄録 判決例からみた米国における審査経過禁反言は、その対象となる「放棄」を客観的立場から判断しているものと主観的立場から判断しているものとに分けることができ、前者が主流的な考え方になっている。客観的立場に立った判決では、審査経過禁反言の対象となる放棄は先行技術に基づく拒絶を回避する為になされた放棄であるとし、米国特許法第112条(明細書記載要件)に基づく拒絶を回避する為になされた減縮には適用しないとしている。また先行技術に基づく拒絶を回避するのに不必要な過分の減縮がなされたときは、審査経過禁反言は適用されないか、或いは適用されても先行技術に基づく拒絶領域をとり込まない範囲で過分の減縮分に対する均等論の適用は認められるとする。主観的立場では、出願人が審査経過で放棄した以上、侵害訴訟で放棄したものを取戻す主張をすることは許されず、減縮が先行技術に基づく拒絶を回避するのに必要であったか否かを検討する必要はないとしている。一方、我が国の判決例には米国の審査経過禁反言に対応する論理として包袋禁反言、意識的除外及び意識的限定がある。包袋禁反言は上記客観的立場に立つ米国の審査経過禁反言に対応する理論であり、判決例は先行技術に基づく拒絶を回避する為にした減縮に対して適用されている。最近の判決例は次第にアメリカナイズされて、特許法第36条に基づく拒絶を回避する為になされた減縮には包袋禁反言を適用しないとした判決があり、また先行技術を回避する為に減縮が必要であったか否かを検討し、過分の減縮については包袋禁反言を適用しないとする立場を示唆した判決がある。意識的除外は、包袋禁反言とは主観的立場から判断する点で相違するが、禁反言の一つであり、米国における上記主観的立場に立つ審査経過禁反言に対応する理論である。意識的限定は意識限度論に根差すもので、包袋禁反言及び意識的除外とは立脚点を異にし、その為に効果を異にする。
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