「知財管理」誌

Vol.51 記事詳細

掲載巻(発行年) / 号 / 頁 51巻(2001年) / 4号 / 537頁
論文区分 論説
論文名 21世紀のIPR 変動と対応を考察する(その1)
著者 金山敏彦
抄録 20世紀における知的財産権(Intellectual Property Rights:IPR)関連の変化を振り返ると共に、21世紀へのIPR変動の兆候をいくつかの視点から捉え、今後の変動方向を予測する。20世紀のIPRの歴史的流れは、米国主導で進行してきた。近年の通信・ソフト・デジタル技術、バイオ技術等の科学技術の進展が10年前の予想を遥かに超えた変動をIPRにもたらしつつある。IPRの独占権強化は次の創造に繋がるインセンティブとなり、ひいては技術・産業の発達に繋がると考えられているが、一方では、独占権強化は訴訟による社会的コスト高騰等の冷却効果となる危険性をはらんでおり、IPR本来の目的に立ち返ってこれらのバランスを取ることが必要である。最近のプロパテント政策は、均等論の拡大等を含む不明確な権利範囲の拡大と進歩性のレベルの低下(有効率の上昇)を招いており、係争多発化に繋がる問題をかかえている。IPRの適切な行使を尊重しつつ、その集積や行使の行き過ぎを規制する独占禁止法は、その役割が益々重要になる。経済のグローバル化、環境問題、社会的意識の変化等ともあわせて考えるとき、IPRの変動の兆候は、将来のIPRが、独占権強化からバランス論へ移行すること、また、さらに独占権から報酬請求権的な権利へ移行する可能性をも示唆している。IPR強化・係争多発・バランスへの変動のなかで、企業の対応は、生まれた発明は早期に出願し又は公開して企業活動の自由度を確保すると共に、不要となった発明は継続的かつ定期的に大胆に整理を行いコスト対効果の効率を上げる必要がある。発明の自由な利用が次の技術進歩に大きく寄与することも、企業の社会貢献として考慮しなければならなくなるであろう。
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