国際活動

WIPO ハーグ作業部会(第8回)への委員派遣

 2019年10月30日(水)から11月1日(金)に、スイス、ジュネーブのWIPOにおいて第8回ハーグ作業部会が開催されました。このハーグ作業部会は年に1回開催される国際会議で、意匠の国際登録制度の改善のために必要な共通規則や実施規則の改正に関する議論が行われました。
   今回、ハーグ協定及び同ジュネーブ改正協定締約国68カ国のうち32カ国及び非加盟国17カ国の政府代表団、1つの国際機関及び5つのユーザ団体が会議に参加しました。 日本からは特許庁、オブザーバーとして日本弁理士会、日本知的財産協会(以下JIPA)が参加しました。2015年、日本国がハーグ協定に加盟して以降、日本特許庁が正式参加しているものの、これまでにJIPAから派遣実績はなく、今回初めて、意匠委員会の森友香副委員長(リコー)及び石井秀賢委員 (ソニーインタラクティブエンターテイメント)の2名を派遣しました。
 本年度は、「出願後の優先権主張の追加」、「国際公表時期の延長(6ヶ月→12ヶ月延長案)」、「名義変更の要件緩和」、「1960年改正協定との整合性」、 「手数料改正の可能性」、「ハーグ制度における言語追加の可能性」、及び「昨年度からの課題進捗報告」が議題となり、いくつかの議題に対してJIPAから意見発信を行いました。
 議題の概要及びJIPAから表明した意見は下記の通りです。
  1. 国際公表時期の延長
     現行の規則においては、国際公表のタイミングは国際登録から6ヶ月です。しかし、現行の6ヶ月ですと、デザイン決定から製品発表までの期間が長い分野では、デザイン決定後に早いタイミングで出願した場合、出願した内容が公報により公表されてしまい、新製品の目新しさが失われたり、または買い控えが行われたりと、マーケット戦略に対して大きな影響が生じています。
     今回、国際公表時期を現行から更に6ヶ月延長する、12ヶ月案が国際事務局より提案されたため、JIPAからはユーザ視点で強く支持する旨の発言をしました。 加えて、12ヶ月案になると、出願後にすぐに権利化したいユーザにとってはデメリットになる可能性もあるため、出願時に限られていた即時公表の請求を出願後であっても可能とする仕組みを併せて導入することを要求しました。
     参加国から合意を得られるように、本会合前にWIPOにJIPAとしてのスタンスを表明したPosition Paperを提出し、議題や作業文書とともにHP上に掲載されたこともあって、12ヶ月案をサポートする加盟国やユーザ団体が大多数でした。一方、ロシアは国内法との調整の関係から、唯一反対の意見を表明し、ロシアに対して議長及び事務局が再三の説得を行いましたが、日本以外のユーザニーズが不明であるとして、ユーザニーズの調査を求めました。 最終的にロシアの合意を得られず、本議題は次年度への継続審議となりました。
  2. 手数料改正の可能性
     ハーグ制度の慢性的な赤字を解消するため、基本手数料の値上げが提案されました。JIPAからは、本提案の値上げには賛成であるが、これ以上の値上げについては慎重に検討されるべきである旨の意見を表明しました。
     アメリカを含む多くの加盟国から、更新の手数料や20年間変わっていない基本手数料も値上げの検討対象とすべきである旨の意見が表明されました。 そのうえで、議長は、事務局に対して、次回セッションまでに意見の出たリニューアルの手数料や基本手数料の改定に関して検討し、報告してほしい旨を要求し、本議案は採択されました。
  3. 言語追加の可能性
     昨年度からの継続審議として、手続き言語として中国語及びロシア語を追加することの是非、新言語導入の基準、実施方法、翻訳や実務にもたらす影響等について議論がされました。
     ロシア語圏の各国が賛成を表明した一方、日本、アメリカ、カナダ、スイス、イギリスなど、言語の追加は、ユーザフレンドリに資するものであるので、それ自体を反対するものではないが、報告された財政事情等に鑑みれば、本議題は優先的に議論されるべきとは思われず、他に優先して議論すべきものが ある旨の意見が挙がりました。JIPAとしても、言語の追加に伴って、費用負担や手続き負担が大きくなるようであれば、受け入れられない旨を表明しました。 各国の意見は合意されず、本議題は次回への継続審議となりました。

 来年度に行われる次回作業部会の議題は、継続審議となった国際公表時期の延長と、言語追加の可能性が予定されています。ハーグ制度の加盟国が年々増加し、本制度の利用価値は増大する中、日本ユーザの利便性拡大のため、本作業部会にJIPAから委員を継続派遣し、日本ユーザの意見を引き続き表明して参ります。

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