国際活動

WIPO-SCP (Standing Committee of the Low of Patents) 26th sessionへの参加

 2017年7月3日〜6日、スイス・ジュネーブで開催されたWIPO第26回Standing Committee on the Law of Patents(SCP:特許法常設委員会)会合に、医薬バイオテクノロジー委員会から森 誠司 氏 (常務理事)、迫 敏史 氏(委員長)を派遣しました。

 この委員会は、特許法の国際的な発展に関して、先進国と途上国が会して問題を議論したり、連携を進めたり、指針を与えたりするために、1998年に創設されたものです。最近は年2回開催され、 世界各国の政府機関代表者、並びにオブザーバーとしてNGO等からの代表者が参加して議論が行われています。JIPAは発言権をもつ公式オブザーバーです。

 WIPO-SCPでは「Exceptions and limitations to patent rights(特許権の例外と制限)」、「Quality of patents, including opposition systems(特許の質)」、「Patents and health(特許と健康)」、 「Confidentiality of communi- cations between clients and their patent advisors(クライアントと特許アドバイザー間の秘密保持)」および「Transfer of technology(技術移転)」の5つの主議題と 1979年に作成されたWIPO Model Lawの改訂要否について議論が行われていますが、特に新興国側からは医薬品に関する特許制度に対して厳しい意見が出ております。また、2016年9月にAccess To Medicinesに 関する国連ハイレベルパネルのレポート(https://static1.squarespace.com/static/562094dee4b0d00c1a3ef761/t /57d9c6ebf5e231b2f02cd3d4/1473890031320/UNSG+HLP+Report+FINAL+12+ Sept+2016.pdf)が発表され、 新興国における医薬品の欠如を改善するために、WTOメンバーによるTRIPS flexibility(自由な特許性基準設定、強制実施権など)の最大限活用、公共資金を得ている大学や研究機関による public health への取り組み向上、およびR&D費用、医薬品価格並びに医薬関連特許情報の透明化などが提案されました。そのため、新興国側から今まで以上に厳しい要望が出ることが予想されたため、引き続き、 医薬・バイオテクノロジー委員会から代表を派遣し、対応しました。特に新薬創出における特許制度の重要性や医薬品産業界の Access to Medicine に関する取り組みを必要に応じて表明できるように、日本製薬工業協会(製薬協)および国際製薬団体連合会(IFPMA)と連携してステートメント(意見表明)案を作成し、参加前に日本国特許庁とも相談し、会議に参加致しました。

 前回に引き続き、ルーマニア特許庁長官が議長となり、4日間の議論がスタートしました。特に先進国側と新興国側で意見が大きく対立している以下の2つの議題について報告いたします。

  1. 特許権の例外と制限に関する議論:
     新興国側からはブラジルから提案された各国の経験に基づく特許権の例外と制限に関するマニュアル作成を強く要望が出ていたのに対し、先進国側からは例外と制限についてはケースバイケースで判断すべきである旨強く反論していただきました。 Future work としては基本的には事実収集に留めるとした上で、薬事承認取得のための例外にフォーカスした参考資料のドラフト作成することが決まりました。
  2. 特許と健康に関する議論:
     まず始めにWIPO事務局より、貧困国における主要な医薬品の特許のカバー状況について報告があり、貧困国においては当該医薬品について特許保護がなされていない現状を報告され、Access to Medicine の改善についてはTRIPS Flexibility の使用による解決について疑問が呈されました。これに対し、新興国側や国境なき医師団といったNGOからはWIPOの見解に対し、国連ハイレベルパネルのレポートに言及しつつ数多くの反対意見が出されておりました。一方、先進国や国際製薬団体連合会(IFPMA)からは、特許制度はイノベーションへの インセンティブにつながり、新興国においても有用な革新的な医薬品開発のためには必要不可欠なシステムであること、国連ハイレベルパネルのレポートは狭い範囲にフォーカスしており、すべての関連 factors を考慮していないことや Member states の意見が入っておらず、endorse されていないことを理由にWIPO-SCPの議論のリファレンスに すべきではないと反論すると共に、Access To Medicine の向上には多くのファクターが関与していることなどを主張していました。また、JIPAからも先進国側の意見をサポートするために準備していたステートメントを出しました。具体的には、特許制度は新興国および先進国の両方における医薬品の開発促進のために重要であることを主張すると共に、日本の製薬企業が新興国における Access To Medicine 向上のために取り組んでいる事例を紹介しました。
     今回の会合でも先進国側のNGOとして、事前に日本国特許庁、製薬協等と協働しながら準備を行い、ステートメントを表明することができたことは大きな成果になりました。 実際に韓国代表やスイス代表の方からはJIPAのステートメントについて高評価していただきました。今後も特許制度のユーザーである産業界の取り組みを紹介しながら、医薬品に対する適正な特許保護を継続して求めて行く必要があると思います。
  • 日本国特許庁を含めた日本政府代表団と
    (左端:迫委員長、右端:森常務理事)
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