抄録 |
中国の法院は、特許制度の歴史が浅く、出願人又は代理人の明細書作成スキルがまだ低いという現状を考慮して、特許制度が発足した当初から、かつてドイツで認められていた不完全利用を裁判実務に取り入れる運用がされてきた。これを「余計指定原則」と称し、特許権者に十分な保護が図れるようにしてきた。しかし、余計指定原則を認めることは特許権の法的安定性にマイナスの影響を与えることになり、2000年頃より、中国のWTO加盟に伴う国際ハーモナイゼィションへの整合性をも考慮に入れて、中国の法院は、余計指定原則を認める要件を明らかにしながら慎重に運用する姿勢に変わり始めた。このような背景の中で、2005年8月22日に、中国最高人民法院は、(2005)民三提字第1号判決で、余計指定原則を特許侵害訴訟のクレーム解釈に安易に適用することには賛成できない、との立場を明確に表明した。この判決は、今までの中国の20年間の特許侵害訴訟に適用されてきた「余計指定原則」に対し、初めて最高人民法院の立場からその適用に慎重な姿勢が示された判決であり、今後の中国における余計指定原則の適用に重要な指導的役割を果たす判決になると予想される。 |