抄録 |
本判決は、長年に亘る禁反言と均等論の論争に終止符を打つものである。判決は、次の4つの判示をした。1)禁反言は、先行技術に基づく拒絶を回避する為になされた訂正だけでなく、特許法の要求を充足させる為にクレームを減縮するあらゆる訂正によっても生ずる。2)禁反言が生ずると、完全禁止ルールに従って一切の均等の主張が禁ぜられるのではなく、放棄された主題に対して禁反言が生じても、放棄されていない主題に対しては弾力的禁止ルールに従って均等論適用の余地はある。3)裁判所が減縮訂正の目的、即ち訂正により何が放棄されたのかを決定できないときは、特許権者は元の広い文言と訂正された狭い文言との間にある全ての主題を放棄したものと推定する(新しい推論の導入)。この推論を覆す為の事実、即ち訂正は争点となっている特定の均等物を放棄したものではないという事実の立証責任を特許権者に負わせる。4)上記推論を覆すことができるケース―訂正は、係争の均等物を放棄したものではないこと―を示す下記3つの規準がある;(1)均等物が出願の時点で予見できなかったこと、(2)訂正の根拠が問題の均等物と直接的関係がないこと、(3)特許権者が問題の非実質的な代替物を記載できたことは合理的には期待できないこと。本稿は上記1)〜4)の判示を検討し、更に判示4)に示された3つの規準(1)〜(3)の意味するところを具体的事例を挙げて解明すると共に、本判決とわが国のボールスプライン軸受事件最高裁判決との差異を明らかにし、更に本判決がわが国の禁反言及び均等論にどのような影響を与えるのかを検討するものである。 |