抄録 |
米国における連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は知的所有権に関する事件を専属管轄とする控訴裁判所として1983年10月に設立され、以来、特許の有効性や侵害の有無について多くの重要な判断を行ってきた。とりわけ、特許クレームの解釈の問題は特許訴訟に必然的につきまとう大命題であり、常に、この問題に関するCAFCの判決は専門家や企業の特許担当者の間で注目されている。一方、周知のように、米国は陪審裁判という我が国にはない裁判制度を採用している国であり、事実の認定を行う第一審裁判所において、どちらか一方の当事者の要請があれば陪審による裁判が行われる。勿論、特許訴訟も例外ではない。陪審は事件における事実は何であるかを認定する役割を担っており、陪審が認定した事実については、コモン・ローに従うほかは、控訴審において再審理されない。事実の認定は事件の核心であり、それが事件の成り行きをほぼ決定してしまうことから、陪審をいかに説得するかが裁判で勝つためのカギであるとさえ言われている。しかしながら、特許訴訟において扱われる特許技術は非常に高度であるケースが多く、また、特許法や特許手続は陪審にとってある意味で全く異質な主題であるため、特許訴訟を陪審裁判で行うことに疑問を抱く声もある。このような背景の中で、クレーム解釈における陪審の役割を問うマークマン事件(Markman v.Westview Instruments Inc.、34 USPQ2d 1321)がCAFCの大法廷(en banc)でレビューされ、さらにこのマークマン判決(1995年4月5日)は、既に、その後の幾つかの事件において既判力を発揮している。本稿では、米国におけるクレーム解釈に関する過去の判例を考慮し、歴史的な流れにおけるマークマン判決の位置付け及びその影響、さらに、クレーム解釈と陪審の役割との関係について考察している。 |