抄録 |
特許製品の並行輸入とは、ある国に特許権が存在し、他国において当該特許権者またはそのライセンシーが製造・販売した製品を、第三者が正当に取得し特許存在国に輸入する行為と定義することができる。従来の我が国の判例は、特許製品の並行輸入が我が国に存在する特許権を侵害する行為であるとして、輸入行為の差し止めを認めていた。ところが、平成7年3月23日、東京高裁より、並行輸入にかかる特許製品は当該特許権を侵害しない旨の判決がなされた(東京高裁平成6年(ネ)第3272号)。特許製品の並行輸入が容認されるとする立場は、一度特許権者が特許製品を市場化した場合には当該特許権は国際的に用尽するという理論に立脚する。このように国際的な特許権の用尽を認める考え方は、各国ごとの権利行使を許容するこれまでの我が国裁判所の考え方からの大きな転換であり、今回の東京高裁の判決は知的財産に携わる者にとって極めてインパクトが大きく、これを契機に並行輸入の問題が新たな関心を呼び起こしている。並行輸入と特許権の関係は、世界一市場化が進む現状において、また輸出に依存する我が国にとって、極めて重要な問題である。したがって、国内企業として、我が国のみならず諸外国における特許製品の並行輸入について熟知しておく必要がある。特に欧州では、EU(欧州連合)が存在し、ローマ条約がEU域内での商品の自由な流通を原則としているため(条約第30条)、各国国内法のみでは特許製品の並行輸入の問題を処理できないという特殊性を有する。そのため、各国裁判所は特許製品の並行輸入とEUにおける条約の商品の自由な流通原則との関係についてECJ(欧州共同体裁判所)の判断を仰いできた。当委員会では、平成4年度より欧州における特許製品の並行輸入についてECJの判決を中心に検討を重ねてきた。そこで、EUを中心とする結果を以下に報告する。 |