専門委員会成果物

5.Q&A

Q.1 <出願人と地域名称との関係>

広範囲な地域の名称である「みちのく」を含む商標を、例えば岩手県内の組合が出願した場合、地域団体商標の登録を受けることは可能ですか。

A.1

可能と考えられます。出願人の所在地と商標中の地域の名称との間に密接な関連性があるかという観点から審査が行われます。岩手県と「みちのく」との地理的範囲は同一ではありませんが、前者は後者に含まれるので問題ないと思われます。但し、周知性の立証の程度は商標中の地域の名称によって多少変わってくることが考えられ、一般に広範囲であるほど立証が難しいものと思われます。

Q.2 <保護を受けられる商標 1>

第7条の2第1項第2号にいう「地域の名称」+「商品(役務)の慣用名称」に該当する例を挙げて下さい。

A.2

「○○織」(織物など)、「○○塗」(漆器など)、「○○紬」(着物など)、「○○焼」(陶器など)、「○○牛」(牛肉)、「○○正宗」(日本酒)などが考えられます(○○は地域の名称。以下同じ)。

Q.3 <保護を受けられる商標 2>

第7条の2第1項第3号にいう「地域の名称」+「商品(役務)の普通名称又は商品(役務)の慣用名称」+「産地等表示する際に付される文字として慣用されている文字」に該当する商標を挙げて下さい。

A.3

「本場○○織」、「○○産キャベツ」、「○○名産××」または「○○特産××」などが考えられます(××は商品の普通名称。以下同じ)。
なお、次のようなものは該当しないと考えられます。
「古都京都せんべい」「杜の都仙台みそ」「元祖○○××」「本家○○××」「おいしい○○××」(「古都」、「杜の都」、「元祖」、「本家」、「おいしい」の各語は、「本場」、「名産」、「特産」と異なり、「産地」との関連において慣用される文字ではないものと考えられます。)

Q.4 <「○○産××」の形態からなる商標の保護>

A.3において「○○産××」が保護対象の例として挙げられていますが、このような形態のものは、一般的に広く用いられているのではないでしょうか。このようなものにも独占権が付与されるとなると、企業として、どのように対応すればいいのでしょうか。

A.4

ご指摘のようにこのような表現は多くの場合、単に商品の産地と普通名称を表したものであると認識されるものと思われます。しかしながら、「魚沼産こしひかり」のように地域ブランドとして周知性を獲得していると思われる場合も有ることから、単に「○○産××」の形態であることをもって一律に登録を排除する根拠はないものと考えられます。従って、企業の対応としては、「○○産××」を表示する際であっても必要に応じて事前に商標調査を行っておくことをお勧めします。

Q.5 <第4条第1項第11号の審査>

次のような場合、類似するか否か(第4条第1項第11号に該当するか否か)についてどのように審査されるでしょうか。(ABCは、識別力のある商標とします。)

【先願既登録商標】 【後願出願商標】
a) 「十勝チーズ」(地域団体商標) 「ABC十勝チーズ」(通常商標)
b) 「十勝チーズ」(地域団体商標) 「十勝ABCチーズ」(通常商標)
c) 「ABC十勝チーズ」(通常商標) 「十勝チーズ」(地域団体商標)
d) 「十勝」(3条2項、指定商品:十勝産チーズ) 「十勝チーズ」(地域団体商標)
e) 「白浜みかん」(地域団体商標) 「和歌山白浜みかん」(地域団体商標)
f) 「伊豆白浜みかん」(地域団体商標) 「和歌山白浜みかん」(地域団体商標)

A.5

ケースバイケースですが、基本的には、同じ文字列がそのまま含まれていると類似すると考えられ、b) のように分断されている場合は非類似と判断されると考えられます。これを踏まえると、次のようになると考えられます。

類否 【先願既登録商標】 【後願出願商標】
a) 類似 「十勝チーズ」(地域団体商標) 「ABC十勝チーズ」(通常商標)
b) 非類似 「十勝チーズ」(地域団体商標) 「十勝ABCチーズ」(通常商標)
c) ※1 「ABC十勝チーズ」(通常商標) 「十勝チーズ」(地域団体商標)
d) 類似 「十勝」(3条2項、指定商品:十勝産チーズ) 「十勝チーズ」(地域団体商標)
e) 類似 「白浜みかん」(地域団体商標※2) 「和歌山白浜みかん」(地域団体商標)
f) ※3 「伊豆白浜みかん」(地域団体商標) 「和歌山白浜みかん」(地域団体商標)

※1 一概に言えない(「ABC十勝チーズ」の「十勝チーズ」が周知であり、「十勝チーズ」と言えば「ABC」といった実情があるような場合は第4条第1項第10号のみならず同第11号の適用も有り得る)

※2 「白浜」が和歌山の白浜でも他の地域の白浜でも結論は同じ

※3 両方とも一連で周知が認められていれば非類似

Q.6 <第26条の考え方>

第7条の2第1項各号と第26条第1項第2号(商標権の効力が及ばない範囲)の文言とは外形上重なる部分が多いことから、登録された他人の地域団体商標を自社商品に表示した場合、当該表示に対し地域団体商標の商標権の効力が及ぶか否かについて、第26条の解釈をめぐって無用な争いが増加することも想像に難くありません。この点について、何か指針を示していただけないでしょうか。

A.6

第26条の解釈・判断は、本来、裁判所の専権事項であり、当委員会のみならず特許庁も責任ある回答をする(できる)立場にありませんが、立法者意思を確認することは意味のあることと考え、当委員会では特許庁に対しヒアリングを行いました。以下は、その内容等を踏まえた当委員会としての見解です。

基本的には、従来、識別性がないとして登録を認めてこなかったものを登録する例外的制度なので、本制度の導入趣旨・目的と個別具体的な事案とを総合的に比較衡量し、適切な司法判断がなされるものと思われます。
また、出所表示機能・自他識別機能を果たす態様での使用(いわゆる「商標としての使用」)であるからといって、一切、第26条の適用がないということではないと考えられます。
なお、特許庁としては、本件について明確な見解を示す立場にないものの、立法者意思として逐条解説等何らかの形でその考え方を公表する予定とのことです。

Q.7 <アウトサイダーの使用>

地域団体登録商標の権利者である組合と同一地域内の者であって組合の構成員でない者が、同様の品質の商品についてその地域団体登録商標を使用することについては当該商標権の効力は及ぶでしょうか。例えば、地域団体登録商標「東京みかん」(権利者:東京都内の組合)が存在する場合において、東京都在住の当該組合に所属しない者が商標「東京みかん」を使用することについては、商品の品質等に拘わらず効力が及びますか。

A.7

効力が及びます。ただし、先使用権に基づく使用である場合(第32条の2)と、商品特性の表示にすぎない場合(第26条)はこの限りではありません。

Q.8 <同一の地名が複数存在する場合の考え方>

例えば地域団体登録商標「白浜みかん」(伊豆の白浜)が存在する場合において、和歌山の白浜に居住する者が商標「白浜みかん」を使用することについて商標権は及びますか。同様に、「和歌山白浜みかん」を使用する場合はどうでしょうか。

A.8

原則、商標権が及ぶと考えられますが(第32条の2または第26条に該当する場合を除く)、裁判所において、需要者が別地域としての認識を持っているなどの事情が考慮される可能性もあります。
また、後願排除(審査)の場面と侵害(裁判)の場面における類似の考え方は必ずしも同じではありません。従って、Q.6のe)のケースのように、「白浜みかん」(地域団体商標)という先願既登録商標が存在する場合に、「和歌山白浜みかん」(地域団体商標)を出願したときは、拒絶されるものと思われますが、他方、侵害場面においては、「和歌山白浜みかん」に対する「白浜みかん」の商標権の効力が及ばないことも有り得ると思われます。

Q.9 <地域団体商標の商標権の効力>

次の各場合において、地域団体商標の商標権の効力は及ぶと考えられますか。

【地域団体登録商標】 【第三者の使用商標】
a) 十勝チーズ 十勝産チーズ
b) 十勝チーズ 十勝のチーズ
c) 十勝チーズ 本場十勝チーズ
d) 十勝チーズ 十勝風チーズ
e) 十勝チーズ 十勝スライスチーズ
f) 十勝チーズ 十勝乾酪
g) 十勝チーズ 北海道十勝チーズ
h) 十勝かぼちゃ 十勝南瓜

A.9

基本的にはQ.5と同様の考え方です。企業にとっては、自らが出願すると第3条第1項3〜6号に該当するような商標であっても、使用すると地域団体商標の商標権を侵害することが有り得ることになるので注意が必要です。なお、以下の回答においては、第三者の使用が第26条に該当するものである場合については考慮していません。

地域団体商標権の効力が及ぶか 【地域団体登録商標】 【第三者の使用商標】
a) 及ばない 十勝チーズ 十勝産チーズ
b) 及ばない 十勝チーズ 十勝のチーズ
c) 及ぶ(「十勝チーズ」の文字列を含むため) 十勝チーズ 本場十勝チーズ
d) 及ばない 十勝チーズ 十勝風チーズ
e) 及ばない 十勝チーズ 十勝スライスチーズ
f) 及ばない 十勝チーズ 十勝乾酪
g) 及ぶ(「十勝チーズ」の文字列を含むため) 十勝チーズ 北海道十勝チーズ
h) 及ぶ(「かぼちゃ」と「南瓜」は称呼および観念が
同一であり、「南瓜」も通常使用されている)
十勝かぼちゃ 十勝南瓜

Q.10 <登録商標の使用と認められる範囲>

第50条において登録商標の使用と認められる範囲は、地域団体商標についても通常の商標と同様と考えてよいでしょうか。例えば登録商標「江戸崎南瓜」で使用商標「江戸崎かぼちゃ」の場合はどうでしょうか。

A.10

通常の商標と同一の扱いです。「江戸崎かぼちゃ」の場合は、「南瓜」と「かぼちゃ」の称呼および観念が同一ですので登録商標の使用とみなされるものと考えられます。

Q.11 <使用を証明する書面>

第7条の2第2項によれば、地域団体商標の登録には、その登録出願前から使用をしている必要があるようですが、出願時において「使用していることを証明する書面」を提出する必要がありますか。

A.11

出願時に提出する必要はありません。但し、審査において提出を要求されることもあり得ますので、出願前から使用していることを示す証拠を確保しておくことをお勧めします。

Q.12 <品質の誤認に係る不正使用>

地域団体登録商標「静岡茶」(指定商品:静岡県産の茶)が存在する場合において、構成員の使用に係る商品「茶」に他県産の茶が含まれている場合、第53条第1項の取消理由に該当しますか。

A.12

他県産の茶が少しでも含まれていれば直ちに品質の誤認を生ずるものとも言い難いので、直ちには該当しないものと思われます。事実認定の問題ということになりますが、「当該組合等の定めるところ」(第31条の2第1項)に反しているか否かは一応の目安になるものと思われます。なお、静岡県産の茶が全く含まれていない場合には、当然にこの取消理由に該当し得ると考えられます。

Q.13 <構成員の不使用>

地域団体登録商標を、権利者は使用しているが構成員は使用していない場合、不使用に係る取消理由または無効理由に該当しますか。

A.13

取消理由に該当しないものと考えられます。
商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが使用をしていれば不使用による取消は免れます(第50条第1項)。なお、団体構成員は第50条の規定の適用については、通常使用権者とみなされます(第31条の2第3項)。

無効理由に直ちには該当しないものと考えられます。
ただし、査定時において、構成員に使用させる意思が明らかにないと推定される場合には無効理由に該当し得ます(第7条の2第1項柱書違反)。この「使用させる意思」の有無に基づく無効審判の請求については除斥期間の適用はありません。(第46条第1項第1号、第47条第1項)
なお、周知性要件を満たしていなかったことを理由とする無効審判の請求については、登録から5年を経過し、かつ、請求時においては周知性を獲得するに至っている場合には請求できない(第47条第2項)こととしていますので注意が必要です。

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