専門委員会成果物

商標法の一部改正 ―地域団体商標の導入―

1. はじめに

地域ブランドの保護については、知的財産推進計画2004(知的財産戦略本部)においてその保護制度を検討することが示され、産業構造審議会知的財産政策部会の商標制度小委員会等においてそのあり方が議論された後、平成17年通常国会にて「地域団体商標」に係る商標法の改正法案が成立し、平成18年4月1日施行の運びとなりました。

本稿では、「地域団体商標」に係る法改正の概要を紹介するとともに、理解しづらい点や企業サイドとして留意すべき点を中心にQ&A形式で解説します。Q&Aにおいては、改正法条文や特許庁説明会テキスト等から明白である事項についてはできるだけ割愛しました。

なお、「5.Q&A」については、特許庁による説明会テキスト及び特許庁へのヒアリング等に基づいてJIPA商標委員会が作成したものであり、個別具体的な事案における特許庁又は裁判所の判断内容について何ら保証を与えるものではありませんのでご留意下さい。

2. 法改正の概要

  1. 改正の目的
    地域ブランドをより適切に保護することにより、事業者の信用の維持を図り、産業競争力の強化と地域経済の活性化を支援する。
  2. 現行制度の問題点
    1. (1) 現行制度
      地域ブランドとしては「地域名」と「商品(役務)名」を組み合わせた商標が用いられることが多い為、文字商標として登録しようとしても、原則として、そのままの形で登録を受けることはできない(第3条第1項第3号・第6号)。
    2. (2) 問題点
      • 地域ブランドが全国的な知名度を獲得して、特定の事業者の商品であることを識別できるようになれば商標登録可能であるが(第3条第2項)、全国的な知名度を獲得するまでの間は商標登録できず、他人による信用への便乗を排除できない。
      • 識別力のある図形等を組み合わせれば商標登録可能であるが、他人が当該地域ブランドと同一の文字を使用していた場合でも、図形等が異なる場合や文字だけの使用を排除できない。
  3. 新制度について
    1. (1) 概要
      地域の名称及び商品又は役務の名称等からなる商標について、一定の範囲で周知となった場合には、事業協同組合等が地域団体商標として登録することを認める。
    2. (2) 地域団体商標の登録要件
      • 出願人が主体要件※を満たしていること(第7条の2第1項柱書)

        ※ 事業協同組合その他の特別の法律により設立された組合(法人格を有しないものを除き、当該特別の法律において、正当な理由がないのに、構成員たる資格を有する者の加入を拒み、又はその加入につき現在の構成員が加入の際に付されたよりも困難な条件を付してはならない旨の定めのあるものに限る。)又はこれに相当する外国の法人

      • 構成員に使用させる商標であること(同上)
      • 商標が使用をされた結果、周知となっていること(同上)
      • 商標が地域の名称及び商品又は役務の名称等からなること(第7条の2第1項各号)
      • 商標中の地域が商品(役務)と密接な関連性を有していること(第7条の2第2項)
      • 普通名称化していないこと、他に周知となっている同一・類似商標がないこと、商品(役務)の品質の誤認を生じるおそれのないこと等(第7条の2第1項柱書かっこ書等)
    3. (3) 商標権の効力の制限<第三者の正当な使用の保護>
      <先使用権>
      地域団体商標が出願される前から、不正競争の目的なく、継続して使用している商標については、引き続き使用することができる(第32条の2)。
      <効力制限の維持>
      表示されている態様からみて、商品の普通名称や産地、品質等を表示するものにすぎず、出所表示機能を果たしていないと認められる商標については、商標権の効力が及ばない(第26条)。

3. 改正される主な条文(新設のみ)

(地域団体商標)

第七条の二

事業協同組合その他の特別の法律により設立された組合(法人格を有しないものを除き、当該特別の法律において、正当な理由がないのに、構成員たる資格を有する者の加入を拒み、又はその加入につき現在の構成員が加入の際に付されたよりも困難な条件を付してはならない旨の定めのあるものに限る。)又はこれに相当する外国の法人(以下「組合等」という。)は、その構成員に使用をさせる商標であって、次の各号のいずれかに該当するものについて、その商標が使用をされた結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、第三条の規定(同条第一項第一号又は第二号に係る場合を除く。)にかかわらず、地域団体商標の商標登録を受けることができる。

  1. 一 地域の名称及び自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる商標
  2. 二 地域の名称及び自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして慣用されている名称を普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる商標
  3. 三 地域の名称及び自己若しくはその構成員の業務に係る商品若しくは役務の普通名称又はこれらを表示するものとして慣用されている名称を普通に用いられる方法で表示する文字並びに商品の産地又は役務の提供の場所を表示する際に付される文字として慣用されている文字であって、普通に用いられる方法で表示するもののみからなる商標
  1. 前項において「地域の名称」とは、自己若しくはその構成員が商標登録出願前から当該出願に係る商標の使用をしている商品の産地若しくは役務の提供の場所その他これらに準ずる程度に当該商品若しくは当該役務と密接な関連性を有すると認められる地域の名称又はその略称をいう。
  2. 第一項の場合における第三条第一項(第一号及び第二号に係る部分に限る。)の規定の適用については、同項中「自己の」とあるのは、「自己又はその構成員の」とする。
  3. 第一項の規定により地域団体商標の商標登録を受けようとする者は、第五条第一項の商標登録出願において、商標登録出願人が組合等であることを証明する書面及びその商標登録出願に係る商標が第二項に規定する地域の名称を含むものであることを証明するため必要な書類を特許庁長官に提出しなければならない。

(先使用による商標の使用をする権利)

第三十二条の二

他人の地域団体商標の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた者は、継続してその商品又は役務についてその商標を使用する場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。

  1. 当該商標権者は、前項の規定により商標の使用をする権利を有する者に対し、その者の業務に係る商品又は役務と自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務との混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求することができる。

4.改正法に関わる情報

次の特許庁サイトに、改正法に係るより詳しい情報があります(平成17年10月現在)。
改正法の全体について把握するには、まず、こちらを参照ください。

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