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専門委員会成果物
次期WIPO事務局長にシンガポールのダレン・タン氏が任命される
タン氏1)は,2020年3月のWIPO調整委員会による指名に続きWIPOの最高統治機関である総会で任命された。
同氏は,2008年10月1日からWIPOの事務局長を務めたフランシス・ガリ氏の後任となる。タン氏のメッセージは以下の通り。
「このような前例のない時代にこの非常に大きな責任を私に任せてくれたことに対する,全ての加盟国の支持と信頼に心から感謝します。COVID-19のパンデミックは,途方もない悲惨さを引き起こし,世界を停滞させました。しかし,人類は共通であることを思い出させてもくれました。WIPOコミュニティは,ウイルスの治療法を発見したり,テクノロジーを通じて我々を互いに繋がり続けさせてくれたり,或いはこの困難な時代に我々の気力を奮い立たせるなどによりこの由々しいパンデミックを克服するために重要な役割を果たす発明者,イノベーター,クリエイターをこれまで以上にサポートするため団結する必要があります。」
タン氏はまた,次のように述べた。
「加盟国やWIPOのスタッフ,そしてグローバルIPコミュニティの多くの利害関係者と協力して,バランスの取れた包括的で活気に満ちた未来のIPエコシステムを構築できることを楽しみにしています。私が再び会うまで,彼らと彼らの愛する人たちが安全で健康であることを心から願っています。」
一方,現事務局長のガリ氏は,「タン氏の任命について,タン氏とシンガポール政府に心からお祝いを申し上げます」と述べ,「国際的なIPコミュニティは,組織の指揮を執るタン氏と良好な関係を築くでしょう。当面の間,タン氏および彼のチームと緊密に連携して円滑な移行を進めることを楽しみにしています」と付け加えた。
タン氏は,オランダのゲオルク・ボーデンハウゼン氏(1970-1973),米国のアルパッド・ボッシュ氏(1973-1997),スーダンのカミル・イドリス氏(1997-2008),オーストラリアのガリ氏(2008-2020)に続き,WIPOの5代目の事務局長になる。
事務局長の選出プロセスは,世界知的所有権機関設立条約および「2019年WIPO局長の指名と任命の手続き」に準拠している。
世界的なCOVID-19パンデミックによってWIPOにおける対面会議がキャンセルまたは延期されたため,事務局長選挙としてのタン氏の承認は,前例のない書面の手続きを通じて行われた。
当初の候補者は表1の通りである2)。日本からはWIPO上級部長である夏目氏が候補者として挙がっており,新興国支援の経験の豊富さから,アジア・アフリカ諸国を始め多くの国の支持の意向が表明されていた。しかし,知財制度を新興国を含めた全ての国の人々のためのものとするためには,先進国出身の現事務局長が2期12年を務めた後は,新興国出身者が次の事務局長に就くことが望ましいとの意見があり,それらを踏まえて夏目氏の推薦は取り下げられた。
2020年3月4日,WIPO調整委員会は臨時会合において,提案された6人の候補者の中からWIPOの局長候補者を指名した。秘密投票により行われた2回の投票の後,調整委員会は,WIPO総会,パリ同盟総会,およびベルン総会が事務局長に任命するためダレン・タン氏を指名した。2020年5月7日及び8日,WIPO総会,パリ同盟総会,ベルン総会が臨時会合で会合し,次のWIPO局長を任命するところ,例外的に書面による総会を実施した。
書面による総会の実施に関し同盟国は,COVID-19のパンデミックによって引き起こされた前例のない公衆衛生上の緊急事態,および公共の集会に関する制限に照らし,同意している。(WIPO調整委員会は,WIPOの財務や人事に関する事項を取り扱う委員会であり,我が国を含む83か国からなる。WIPO調整委員会の構成国定数88の内,空席となっている5か国分を各地域グループにどのように配分するかについては2019年総会では合意されず,2021年の加盟国総会で引き続き議論となっている3))
日本の経済産業省によれば4),我が国としては,今後WIPOが新事務局長の下で,以下のような取組を進めて行くことが重要であると考えており,その実現に向けてWIPOの運営に一層積極的かつ建設的に参画する方針である。
- AI/IoT等を始めとする急速なイノベーションの進展に知財制度を適切に対応させるための国際的な取組を主導すること。
- 全ての加盟国の全ての人が,イノベーションの果実を公正に享受できるよう,先進国と途上国の橋渡しを行い,加盟国と協働しつつ,知的財産の適切な保護と活用に向けた国際的な環境整備をより積極的に進めること。
JIPAシンポジウム登壇等,JIPAとの親交もあったガリ氏には,その長年の貢献に謝意を示しつつ,新任のタン氏には,全ての加盟国の全ての人が,イノベーションの成果を公正に享受できるよう尽力してくださることを期待する。
表1 候補者
Candidate | Proposed by | Candidancy withdrawn |
Ms. Saule Tlevlessova | Republic of Kazakhstan | - |
Mr. Daren Tang | Republic of Singapore | - |
Mr. Kenichiro Natsume | Japan | Candidacy withdrawn |
(February 14, 2020) | ||
Ms. WANG Binying | China | - |
Dr. Edward Kwakwa | Ghana | - |
Mr. Marco Matias Aleman | Colombia | - |
Dr. Dámaso Pardo | Argentina | Candidacy withdrawn |
(February 4, 2020) | ||
Professor Adebambo Adewopo | Nigeria | Candidacy withdrawn |
(February 12, 2020) | ||
Mr. Ivo Gagliuffi Piercechi | Peru | - |
Mr. Jüri Seilenthal | Estonia | Candidacy withdrawn |
(January 22, 2020) |
WIPOニュース(2020年5月8日)
https://www.wipo.int/pressroom/en/articles/2020/article_0011.html
1)ダレン・タン氏の経歴:
https://www.wipo.int/export/sites/www/about-wipo/en/elections2020/circular3937.pdf#page=4
2)Election of the Director General in 2020
https://www.wipo.int/about-wipo/en/elections2020/
世界知的所有権機関設立条約
https://www.wipo.int/treaties/en/convention/
3)2019年WIPO加盟国総会結果概要
https://www.jpo.go.jp/news/kokusai/wipo/wipo2019.html
4)世界知的所有権機関(WIPO)事務局長選挙について(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/speeches/danwa/2020/20200214.html
(参照日:2020年5月20日)
(井波 ゆき恵)
