専門委員会成果物

特許法271条（e）（2）に基づく訴訟の裁判地はANDAの提出に十分に関連している地区のみが適切であるとした事例

CAFC判決　2020年11月５日
Valeant Pharmaceuticals North America LLC, et al. v. Mylan Pharmaceuticals Inc., et al.

［経緯］

　Dow Pharmaceutical Sciences, Inc.（Ｄ社）の医薬品Jublia®は，米国食品医薬品局（FDA）により新薬承認されている。Mylan Pharmaceuticals Inc.（Ｍ社）は，Jublia®のジェネリック品を販売するため，ウエストバージニア州の本社からメリーランド州にあるFDAに簡略新薬承認申請（ANDA）を送付した。ANDAには，Jublia®のオレンジブックに掲載された特許は無効，行使不能，またはANDA製品によっては非侵害であるとするパラグラフⅣの認証が含まれていた。
　Ｄ社やValeant Pharmaceuticals North America LLCを含む数社（Ｄ社ら）は，Ｍ社に対して，ニュージャージ連邦地裁に訴訟を提起し，Ｄ社のオレンジ・ブックに掲載された特許の侵害の主張，および当該特許の有効性の確認判決を求めた。訴状には，Ｍ社がニュージャージ州でジェネリックのビジネスを行っている等，Ｍ社とニュージャージ州とのつながりについて記載されていた。Ｍ社は，Ｍ社ら被告の企業のいずれもニュージャージ州に法人登録しておらず，定常的に確立されたビジネスの地でもないため裁判地が不適当だと主張して，Ｄ社らの請求の棄却を申立てた。
　ニュージャージ連邦地裁は，ANDAはウエストバージニア州から提出されており，そこが裁判地として適格だと判断した。地裁は，被告が侵害行為を行った場所でのみ特許訴訟を起こすことができると結論づけ，訴訟の提起前に侵害行為が発生した可能性のある場所は，ウエストバージニア州とメリーランド州であり，ニュージャージ州ではないとし，Ｄ社らの請求を棄却した。
　Ｄ社らはこれを不服とし，CAFCに控訴した。

［CAFCの判断］

　特許法271条（e）（2）によれば，特許にクレームされている医薬品又はその使用に関するANDAを提出する行為は，その特許の満了前に商業的に製造，使用又は販売に従事するために承認を得ることを目的としている場合，侵害行為となる。この侵害行為に対して起こされた訴訟（Hatch-Waxman Act）においては，特定されたジェネリックの将来的流通が特許を侵害するか否かが問われ，侵害する場合には，裁判所はFDAに，侵害された特許が満了する前に承認することを禁ずる命令をする。そこで，裁判地を特定する侵害行為が，ANDAがFDAに提出される時及び場所のみで発生するのか，ジェネリックの将来的流通が予期される場所ならどこでも発生するのか，を判断することになる。
　CAFCは以下の様に判示した。特許法271条（e）（2）に基づく侵害行為に対する裁判地は，過去の侵害行為，すなわち，提訴される前に発生した侵害行為に基づいて決定されなければならない。ANDAの提出のみが過去の侵害行為であり，ANDAに明記されたジェネリック製品の流通という将来的な行為は該当しない。それゆえ，特許法271条（e）（2）に基づく侵害行為に対する訴訟の裁判地は，ANDAに明記されたジェネリック製品が流通する可能性があるすべての司法管轄地区ではなく，ANDAの提出に十分に関連している地区のみが適切である。
　CAFCは，Ｄ社らの提訴が不適切な裁判地であるとする地裁の判断を支持した。

（松田　心平）

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