専門委員会成果物

コンピュータネットワークへのハッカー侵入を監視する方法に関する特許は，コンピュータネットワーク技術の改善に向けられているため特許適格性を満たすと判断された事例

CAFC判決　2019年3月20日
SRI International, Inc. v. Cisco Systems, Inc.

［経緯］

　SRI International, Inc.（Ｓ社）は，コンピュータネットワークへのハッカー侵入を監視するためのコンピュータによる方法に関する特許6,711,615（’615特許）を保有しており，Cisco Systems, Inc.（Ｃ社）が提供するサービスが’615特許を侵害するとして特許侵害訴訟を提訴した。
　’615特許のクレームは，以下の４つのステップを有する。①ネットワークに複数の監視装置を配置する。②監視装置が，１以上のカテゴリから選択されたトラフィックデータの分析を実行し，これによりネットワーク中の疑わしい動きを検出する。③監視装置が，疑わしい動きに関するレポートを生成する。④１以上の監視装置によって生成されたレポートを自動的に受け取り統合する。
　Ｃ社は，以下の３つの理由により，’615特許が101条に基づく特許適格性を欠くと主張したが，地裁はこれを否定した。①単にデータを収集し分析するという一般的なステップを対象としている。 ②コンピュータを道具として用いた概念であり，コンピュータそれ自身の機能改善を必要としない。③人間の思考として実行されるほどに一般的である。
　Ｃ社はこの決定を不服としてCAFCに控訴した。　

［CAFCの判断］

　CAFCは，’615特許は，コンピュータネットワークへの顕在的及び潜在的な不正侵入を発見するという技術課題を解決するものであり，コンピュータネットワーク技術の改善に向けられているため抽象的アイデアを対象としたものではないとして，特許適格性を認めた地裁の決定を支持した。
　また，CAFCは，Ｃ社の上記３つの主張に対して，それぞれ以下のとおり述べた。

　①疑わしい動きの検出・レポート生成・統合というステップを実行することにより，コンピュータネットワークにおける
　　型にはまった従来の順序を覆す技術である。
　②コンピュータを道具として使うこと，すなわち従来の概念をコンピュータ上で自動化することに向けられたものでは
　　なく，コンピュータネットワークの安全性を改善するための特別な技術に言及することで，コンピュータとネットワー
　　クの技術的機能性を改善するものである。
　③ネットワークの監視装置を用い，トラフィックデータを分析することで，ネットワーク中の疑わしい動きを検出する
　　機能は，人間の脳に装備されていない。

（岩田　史子）

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