専門委員会成果物

事実上の損害がないため，PTABの決定に対する控訴の当事者適格を否定した事例

CAFC判決　2019年2月7日
Momenta Pharmaceuticals, Inc. v. Bristol-Myers Squibb Company

［経緯］

　Bristol-Myers Squibb Company（Ｂ社）は安定タンパク質製剤に関する特許の特許権者である。Momenta Pharmaceuticals, Inc.（MO社）は，当該特許に対してIPRを請願した。請求当時，MO社は，Ｂ社の安定タンパク質製剤のバイオ後続品を開発していた。PTABは，MO社によるIPRの審理を開始したものの特許維持を決定した。MO社は，この決定を不服としてCAFCに控訴した。
　Ｂ社は，MO社がバイオ後続品の臨床試験に失敗し，そのバイオ後続品をアメリカ食品医薬品局の承認審査から取り下げたことを指摘し，憲法第３条の下で裁判所において特許無効を主張するために必要な当事者適格がMO社には無いとして，本控訴の却下を申し立てた。　　　　　　　　　

［CAFCの判断］

　CAFCは，行政行為の法律適合性に対する裁判所の審査（司法審査）が認められるか否かは，憲法第３条の要件である「事実上の損害」に従うことを示し，以下の理由①～③により， MO社には当事者適格が無いとして，本控訴を却下した。

　理由①：MO社は当初，バイオ後続品の開発に数百万ドルを投資したことを強調していたが，今ではすべての潜在的侵害行為を終了している。したがって，Ｂ社の特許を無効にすることによって MO社が法的に保護される利益および司法審査の権限を行使する真の必要性は存在しない。
　理由②：MO社は，IPRの禁反言規定が「事実上の損害」をもたらすと主張している。しかし，将来起こりうる侵害訴訟を導く活動を行っていない場合は，禁反言は「事実上の損害」を構成しない。MO社は，今やバイオ後続品の開発から撤退しているので，IPRの禁反言規定は「事実上の損害」をもたらすものではない。
　理由③：MO社は，バイオ後続品の開発パートナーであるMylan Inc.（MY社）が別のバイオ後続品を販売する可能性を示し，将来MY社からロイヤリティ収入を得られると主張している。しかし，MO社のこの主張は，第三者によりなされる自由な選択に関する推測に依存するものであるため，「事実上の損害」を認めるサポートには当たらない。

（土江　健司）

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