専門委員会成果物

AIA下において，秘密保持下の製品の販売又は販売の申出を行ったことにより，新規性喪失と判断された事例

最高裁判決　2019年1月22日
Helsinn Healthcare S. A. v. Teva Pharmaceuticals USA, Inc.

［経緯］

　Helsinn Healthcare S. A.（Ｈ社）は，制吐薬パロノセトロン（商品名：アロキシ®）を販売しており，パロノセトロン0.25mgの５ml製剤を保護する特許8,598,219（’219特許）を保有している。 ’219特許の優先日は2003年であるが，2013年に出願された一部継続出願であり，米国特許改正法（AIA）が適用される。
　Teva Pharmaceuticals USA, Inc.（Ｔ社）らは，当該医薬品の後発医薬品申請にあたり，Hatch-Waxman法の下，’219特許が無効であると主張し，パラグラフⅣに基づくANDA（医薬品簡略承認申請）を行った。これに対し，Ｈ社は’219特許が有効であると主張し，更に，Ｔ社の該申請は，’219特許を侵害するとして特許権侵害訴訟を地裁に提起した。
　Ｈ社は当該特許の優先日より約２年前に，MCI Pharma（Ｍ社）と秘密保持義務を伴うライセンス契約及び供給・販売契約を締結しており，Ｈ社及びＭ社は共同でその旨をプレスリリースしていた。またＭ社は当該契約について証券取引所へ報告していた。なお，当該プレスリリース及び報告において，特定の投与製剤に関する情報は開示されていない。
　この事実から，地裁の審理に於いて，本件訴訟は，AIA下においても特許法102（a）（1）に定める“on sale”に該当し新規性喪失となるか，すなわちon-sale barが適用されるかが争点となった。
　地裁は，当該契約の公への発表に，0.25mgの用量は開示されていないことから，on saleに該当せず，特許は有効との判断を行った。これを不服として，Ｔ社はCAFCに控訴した。
　控訴審に於いて，CAFCは販売又は販売の申出について，公衆に利用可能であること，契約中に発明の詳細が記載されていることは必要ではないと判断した。さらに契約締結当時，既に特許可能な状態であると判断し，当該特許はon saleに該当するとして，当該特許は無効であると地裁の判断を覆した。これを不服とし，Ｈ社は最高裁へ上告した。　　　　　

［最高裁の判断］

　最高裁は，法改正があってもon saleの文言は同様に用いられているため，当該文言は過去の解釈，すなわちpre-AIAにおける解釈を適用すべきとして，CAFCの判断を支持した。
　そして，Ｈ社の反論はpre-AIAにおけるon-sale barの解釈の再考を求めるものでなく，pre-AIAにおけるon saleに該当すると判断したことについて反論するものでもないことから，CAFCの判決同様に，特許法102（a）（1）に基づき本件特許は無効と判示した。

（舟津　孝明）

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