専門委員会成果物

特許法156条に基づいてある特許の存続期間を延長すると，他の特許も実質的に存続期間が延長されることになる場合でも，存続期間の延長は有効である，と判断した事例

CAFC判決　2018年12月7日
Jack Henry ＆ Associates, Inc., et al. v. Plano Encryption Technologies LLC

［経緯］

　Novartis AG（Ｎ社）は，多発性硬化症薬の有効成分であるフィンゴリモドに係る化合物の特許5,604,229（’229特許）およびその化合物を使用する方法の特許6,004,565（’565特許）を保有していた。 ’229特許は特許法156条に基づく特許存続期間の延長（Patent Term Extension（PTE））が申請されて2019年２月18日まで権利期間が延長された一方，’565特許はPTEが申請されず失効となった。Ezra Ventures LLC（Ｅ社）がＮ社の多発性硬化症薬のジェネリック版に関する簡略新薬申請書を提出したことから，Ｎ社はＥ社が’229特許を侵害しているとして提訴した。
　地裁においてＥ社は，①’229特許の存続期間が延長されると’565特許もその延長期間において実施できず，実質的に’565特許の存続期間も延長されることから，特許法156条（c）（4）の「複数の特許の存続期間を延長できない」という要件を満たしていないこと，②’229特許のクレームは’565特許のクレームと特許的に区別できず，自明型ダブルパテントにより無効であること等を理由に，’229特許の存続期間について，延長が無効であると判断されるべき，もしくは，’565特許の満了日以降の存続期間は放棄されるべきであると主張した。
　地裁はこの訴えを却下し，Ｅ社の製品を’229特許の権利満了まで差し止めるよう命令したが，Ｅ社はこの決定を不服として，CAFCに控訴した。　　　　　　

［CAFCの判断］

　CAFCは，Ｅ社の主張を退け，地裁判断を支持した。
　理由①についてCAFCは，Ｅ社の主張の根拠となる特許法156条（c）（4）は，PTEにより法的に存続期間が延長される特許を１つのみに制限するものであり，「実質的な」延長を制限するものではないとした。そして，’229特許の存続期間の延長中に’565特許を実施できないことは，’229特許のPTEによる結果として許容できるものであると判断し，Ｅ社の主張を退けた。
　また，理由②についてもCAFCは，本件が「ターミナルディスクレーマにより権利期間が放棄されていても，権利期間中にPTEが申請されたら存続期間が延長されるべきである」とした Merck判決（Merck ＆ Co. v. Hi-Tech Pharmacal Co., 482 F.3d 1317（Fed. Cir. 2007））と類似しているとし，自明型ダブルパテントが，’229特許の存続期間を’565特許の満了日以降放棄すべき理由にはならないと判断した。さらに，’229特許は自明型ダブルパテントによって権利期間を放棄すべきものではなく，PTE申請以前において法律の規定の下有効であるため，PTEによる存続期間の延長の権利が与えられると判断し，Ｅ社の主張を退けた。

（旭　伸隆）

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