専門委員会成果物

優先権に基づく一連の特許出願において,中間の出願で優先権を放棄する補正を行ったことで後願の優先権が認められなかった事例

CAFC判決 2018年10月1日
Natural Alternatives International, Inc. v. Andrei Iancu

[経緯]

 Natural Alternatives International, Inc.(N社)は,1997〜2011年の間に,スポーツ選手の持久力向上の発明について,優先権に基づく一連の特許を出願した。第1出願の後, 5年のうちに第2〜4出願として継続出願を行った。N社は2003年4月に仮出願を行い,同11月に,第1〜4出願及び該仮出願の優先権に基づき,第5出願として一部継続出願を 行った。第5出願の係属中に,第6出願として第1〜5出願の優先権に基づく継続出願を行った(2008年8月)。その4日後にN社は,第5出願に対して第1〜4出願の優先権に 関する相互参照を削除し,特許法119条(e)下で該仮出願の優先権のみに関する相互参照に変更する補正を行った。その後,N社は第1〜5出願及び該仮出願の優先権に基づく 継続出願として第7〜8出願を行い,第8出願が特許8,067,381(’381特許)として登録された。
 ’381特許についてWoodbolt Distributors, LLC(W社)が当事者系レビューを請求した(2012年5月)。W社が,第5出願に対するN社の補正により第4と第5の出願の間で 優先権のチェーンが途切れたと主張する一方で,N社は,無補正の第6出願により第1出願の優先権が維持されると主張した。審査官は優先権を認めず,第1出願の特許等を 先行文献として’381特許の有効性を否定した。その後,N社が審判を請求したが,PTABは,N社が第5出願において第4出願の優先権に関する相互参照を削除したこと, 第8出願が第5出願を通じて第1出願の優先権を主張することから,第8出願について第1〜4出願の優先権を認めず,審査官の拒絶を支持した。N社はこれを不服として CAFCに控訴した。   

[CAFCの判断]

 N社は,第6出願が特許法120条の基準を一旦満たせば,第1出願に基づく優先権が第6出願に付与されること,優先権のチェーンにおいて中間の出願で第1出願に基づく 優先権を放棄したとしても,優先権の放棄は当該出願に限定され,後願にまで拡張して適用できないこと等を主張した。
 CAFCは,特許権者が単に優先権を主張したからといって最先の優先日が認められるものでなく,少なくとも,PTOや審判部等に対して特許法120条の条件を満たすことを 証明するまでは,優先権が認められないことを指摘した。また,先願に対する補正が子出願の優先権に影響を与えうることに言及し,第5出願は第1出願に基づく優先権を 失っており,その第5出願を通して第1出願に優先権の基礎を求める第8出願の相互参照は,特許法120条の基準を満たすものでないと判断した。
 以上よりCAFCは,’381特許について第1出願に基づく優先権を認めず,初めから瑕疵のあるものとして’381特許の対象クレームを無効とするPTABの判断を支持した。

(廣本 敦之)

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