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専門委員会成果物
ブロッキングパテントの適用により特許が無効と判断された事例
CAFC判決 2018年9月10日Acorda Therapeutics, Inc., et al. v. Roxane Laboratories, Inc., et al.
[経緯]
Acorda Therapeutics, Inc.社(A社)は,多発性硬化症の治療向けのアミノピリジンの投与方法に関して4件の特許を保有している。(特許8,007,826,特許8,663,685,
特許8,354,437,および,特許8,440,703。以下,Acorda特許)さらに,A社にはElan Corporationの保有するアミノピリジンに関する特許5,540,938(’938特許)の専用
実施権が設定されている。Acorda特許は,’938特許の主題であるアミノピリジンを対象に,その投与量,投与期間,血中濃度等,投与条件に相当するクレームが規定されたものである。
Roxane Laboratories, Inc. 他2社(R社)はアミノピリジンのジェネリック薬品について市販のためアメリカ食品医薬局(FDA)に対して医薬品簡略承認申請を行った。
これに対し,A社は,R社が申請したアミノピリジンのジェネリック薬品が上記5件の特許を侵害するとして特許侵害訴訟を地裁に提訴した。
R社は,先行文献に基づき,5件の特許全てのクレームは自明であるとして,および,’938特許について記載要件を満たさないとして,特許性を有しないと主張した。
地裁は,Acorda特許についてはこのR社の主張を認め特許性を有しないとする判決を下した(無効判決)が一方で,’938特許についてはこのR社の主張を認めず特許性を 有しているとする判決を下した(有効判決)。Acorda特許の無効判決において,地裁は,薬物動態によって権利範囲を限定したクレームは’938特許と内在的同一であるとして 特許性を有しないと判断した。さらに,Acorda特許の無効判決に関して,’938特許はAcorda特許をブロッキングパテント(周辺特許)とする関係にあるので,非自明性の 判断において,商業的成功等の二次的考察の考慮(secondary consideration)を認めないと判断した。
A社は,この無効判決を不服としてCAFCに控訴した。一方,R社も有効判決を不服としてCAFCに控訴した(クロスアピールの状況)。
Roxane Laboratories, Inc. 他2社(R社)はアミノピリジンのジェネリック薬品について市販のためアメリカ食品医薬局(FDA)に対して医薬品簡略承認申請を行った。
これに対し,A社は,R社が申請したアミノピリジンのジェネリック薬品が上記5件の特許を侵害するとして特許侵害訴訟を地裁に提訴した。
R社は,先行文献に基づき,5件の特許全てのクレームは自明であるとして,および,’938特許について記載要件を満たさないとして,特許性を有しないと主張した。
地裁は,Acorda特許についてはこのR社の主張を認め特許性を有しないとする判決を下した(無効判決)が一方で,’938特許についてはこのR社の主張を認めず特許性を 有しているとする判決を下した(有効判決)。Acorda特許の無効判決において,地裁は,薬物動態によって権利範囲を限定したクレームは’938特許と内在的同一であるとして 特許性を有しないと判断した。さらに,Acorda特許の無効判決に関して,’938特許はAcorda特許をブロッキングパテント(周辺特許)とする関係にあるので,非自明性の 判断において,商業的成功等の二次的考察の考慮(secondary consideration)を認めないと判断した。
A社は,この無効判決を不服としてCAFCに控訴した。一方,R社も有効判決を不服としてCAFCに控訴した(クロスアピールの状況)。
[CAFCの判断]
CAFCは,A社の控訴について以下(A)〜(C)の通り判断し,A社の主張を認めず,地裁の無効判決を支持した。一方,CAFCは,R社の控訴について,FDAによる認可が’ 938特許の権利満了日よりも早く行われることがないため請求を棄却した。
(A)Acorda特許が自明である点について
先行文献に開示された技術は,Acorda特許発明の内容に対する阻害要因があるというA社主張に対して,成功の合理的期待に基づく組合せの動機付けが認められることより,
CAFCはA社の反論を退けた。
(B)薬物動態に関するクレーム限定について
ある自明な薬剤について,単に患者に対して投薬し得られた血中濃度等についてクレームとしたものは自明ではないと地裁が判断した点について,A社は的確に反論する
証拠資料を提示していないことを理由として,CAFCはA社の反論を退けた。
(C)周辺特許の適用について
’938特許について,特許権者およびライセンシー以外の誰もが特許侵害に係る責任を負わずにAcorda特許発明を実施することはできなかったとし,CAFCは,周辺特許の
関係を認めた。そして,非自明性判断に関して商業的成功等の二次的考察の考慮を認めないという地裁判断を支持し,CAFCはA社の反論を退けた。
但し,周辺特許の適用に関して,Newmann判事は,’938特許はアミノピリジンを使った研究や,他の治療法の開発を妨げていないうえ,R社がジェネリック
薬品を開発する行為も妨げていないことを理由とし,反対意見を述べている。
(松谷 慎太郎)
