専門委員会成果物
実施例の多様な組合せを許容するために挿入された明細書中の定型文では特許法112条の記述要件を満たさないとして優先権主張が認められなかった事例
CAFC判決 2018年5月21日D Three Enterprises, LLC v. SunModo Corporation
[経緯]
D Three Enterprises, LLC(D社)は,ソーラーパネル等を設置するための屋根用防水取付部材に係る3件の特許(特許8,689,517等)を保有しており,D社はこの特許権侵害を理由に,
SunModo Corporation(S社)及びRillito River Solar LLC(R社)を地裁に提訴した。ここで,3件の特許はいずれも2009年2月5日に出願された仮出願(2009年仮出願)を優先権主張の基礎と
するものであったが,S社の被疑侵害製品は2010年時点で,またR社の被疑侵害製品は2009年6月時点で公衆に利用可能であったことから,D社が特許無効を回避する為には当該優先権主張の利益を
享受することが必要であった。
地裁は,D社が侵害を主張するクレーム(主張クレーム)が2009年仮出願に開示された発明よりも広く一般化されたものであり,特許法112条(a)の記述要件を満たさないとして優先権主張の 効力を認めず,2009年仮出願の後に公衆に利用可能となった被疑侵害製品等に基づき,新規性欠如を理由として全ての主張クレームを無効とする略式判決を下した。
D社はこの判決を不服とし,CAFCに控訴した。
D社は,2009年仮出願の明細書に開示された一実施例(ワッシャレス構造と特定の取付ブラケット形状とを有する部材)及び明細書の末尾にある“[PHOSITAs] will recognize certain modifications, permutations, additions and subcombinations therefore. It is therefore intended that the following appended claims hereinafter introduced are interpreted to include all such modifications, permutations, additions and subcombinations are within their true sprit [sic] and scope.”との記載に基づき,主張クレームに係る構成要素の組み合わせ(ワッシャレス 構造と任意の取付ブラケット形状とを有する部材)がサポートされていると主張した。
CAFCは,上記のような明細書中の定型文は実際の組み合わせやワッシャレス構造に適用可能な他の取付ブラケット形状の例を開示するものではないため,D社の主張クレームに係る発明は2009年 仮出願において特許法112条(a)の記述要件を満たす程度に開示されているとはいえず,当該仮出願に対する優先権主張の利益を享受することはできないと判断した。
地裁は,D社が侵害を主張するクレーム(主張クレーム)が2009年仮出願に開示された発明よりも広く一般化されたものであり,特許法112条(a)の記述要件を満たさないとして優先権主張の 効力を認めず,2009年仮出願の後に公衆に利用可能となった被疑侵害製品等に基づき,新規性欠如を理由として全ての主張クレームを無効とする略式判決を下した。
D社はこの判決を不服とし,CAFCに控訴した。
[CAFCの判断]
CAFCは,特許法112条(a)の記述要件に係る地裁認定に誤りはないとして,地裁の略式判決を支持した。D社は,2009年仮出願の明細書に開示された一実施例(ワッシャレス構造と特定の取付ブラケット形状とを有する部材)及び明細書の末尾にある“[PHOSITAs] will recognize certain modifications, permutations, additions and subcombinations therefore. It is therefore intended that the following appended claims hereinafter introduced are interpreted to include all such modifications, permutations, additions and subcombinations are within their true sprit [sic] and scope.”との記載に基づき,主張クレームに係る構成要素の組み合わせ(ワッシャレス 構造と任意の取付ブラケット形状とを有する部材)がサポートされていると主張した。
CAFCは,上記のような明細書中の定型文は実際の組み合わせやワッシャレス構造に適用可能な他の取付ブラケット形状の例を開示するものではないため,D社の主張クレームに係る発明は2009年 仮出願において特許法112条(a)の記述要件を満たす程度に開示されているとはいえず,当該仮出願に対する優先権主張の利益を享受することはできないと判断した。
(三宅 祐輔)