専門委員会成果物
クレームされた範囲の明細書によるサポートは,広範な開示以上のものが必要とされると判断された事例
CAFC判決 2018年5月4日The General Hospital Corporation, v. Sienna Biopharmaceuticals, Inc.
[経緯]
ナノ粒子を用いて毛髪を除去する方法に関して,The General Hospital Corporation(G社)は特許出願13/789,575 (’575出願)を出願しており,一方のSienna Biopharmaceuticals,
Inc.(S社)は特許8,821,941(’941特許)を所有していた。これらの特許及び出願について,G社の提案により2015年10月8日に抵触審査が実施された。
その抵触審査の中で,’575出願は光学密度を参照した製剤の記載がされているのに対し,’941特許の請求項には1mlあたりの粒子濃度が記載されており,両当事者は光学密度を粒子濃度に変換する係数について争った。
PTABがS社の専門家によって提供された係数を採用し,’575出願の出願時に開示されていた光学密度を変換したところ,’941特許の濃度範囲内にはないことが判明した。従って,’575出願の 明細書には争いとなった’941特許の請求項の範囲はサポートされていないとPTABは判断した。
G社はこの決定を不服として,CAFCに控訴した。
具体的には,今回のケースの場合,「1mlあたり1×1011個の粒子未満から未確認の最大値までの濃度」という記載では,「約6.6×1011粒子/ml」というクレームされた濃度について明細書にサポートがあるとは言えず,また,その範囲内の特定の値の開示もないため,クレームされた値の開示があるとは言えない,とした。
CAFCは,明細書のサポートとして50%の重複部分では不十分であるとされたEISELSTEIN判決(EISELSTEIN v. FRANK, 52 F.3d 1035(1995))を前例として,開示された範囲がクレームされた範囲を特定または選び出していなければならないということを再確認した。
したがって,CAFCは明細書の記載が不十分であることを支持する実質的な証拠があったとしたPTABの判断に誤りはないと判断した。
G社は,PTABが前記した議論に関する特定の形態をカバーする新たな請求項を追加する申立を拒絶したことに対しても控訴していたが,これに対し,CAFCは,G社の新たな請求項の追加の申立に対するPTABの拒絶を取り消し,さらなる手続のため差し戻した。
その抵触審査の中で,’575出願は光学密度を参照した製剤の記載がされているのに対し,’941特許の請求項には1mlあたりの粒子濃度が記載されており,両当事者は光学密度を粒子濃度に変換する係数について争った。
PTABがS社の専門家によって提供された係数を採用し,’575出願の出願時に開示されていた光学密度を変換したところ,’941特許の濃度範囲内にはないことが判明した。従って,’575出願の 明細書には争いとなった’941特許の請求項の範囲はサポートされていないとPTABは判断した。
G社はこの決定を不服として,CAFCに控訴した。
[CAFCの判断]
CAFCは’575出願に開示された値はいずれも’941特許にクレームされた範囲には入らないとのPTABの判断を支持した。そして,「広範囲の値の開示は,それだけではその 範囲内の特定の値についてまで明細書のサポートがあると考えられるものではない」と述べた。具体的には,今回のケースの場合,「1mlあたり1×1011個の粒子未満から未確認の最大値までの濃度」という記載では,「約6.6×1011粒子/ml」というクレームされた濃度について明細書にサポートがあるとは言えず,また,その範囲内の特定の値の開示もないため,クレームされた値の開示があるとは言えない,とした。
CAFCは,明細書のサポートとして50%の重複部分では不十分であるとされたEISELSTEIN判決(EISELSTEIN v. FRANK, 52 F.3d 1035(1995))を前例として,開示された範囲がクレームされた範囲を特定または選び出していなければならないということを再確認した。
したがって,CAFCは明細書の記載が不十分であることを支持する実質的な証拠があったとしたPTABの判断に誤りはないと判断した。
G社は,PTABが前記した議論に関する特定の形態をカバーする新たな請求項を追加する申立を拒絶したことに対しても控訴していたが,これに対し,CAFCは,G社の新たな請求項の追加の申立に対するPTABの拒絶を取り消し,さらなる手続のため差し戻した。
(平尾 拓樹)