専門委員会成果物
新薬に関する特許発行と後発医薬品の医薬品簡略承認申請のタイミング，及び治療方法の特許適格性が争点となった事例
CAFC判決 2018年4月13日Vanda Pharmaceuticals Inc., et al. v. West-Ward Pharmaceuticals International Ltd., et al.
［経緯］
Vanda Pharmaceuticals Inc.（Ｖ社）は，統合失調症の治療薬であるイロペリドンについて，Aventisub LLC所有の再発行特許39,198（’198特許）の専用実施権，及び特許8,586,610
（’610特許）を有していた。’610特許は，イロペリドンを用いた統合失調症患者の治療方法に関し，患者から生体サンプルを取得する工程，生体サンプルの遺伝子型解析を実行し，ある症状リスクに
関連する特定の薬物代謝酵素の活性の高さを判断する工程，活性の高さに応じて量を区別して投与する工程，を含む。
Ｖ社は，2009年にイロペリドンについて米国食品医薬品局（FDA）の新薬承認申請（NDA）の承認を受けた。 West- Ward Pharmaceuticals International Ltd.（Ｗ社）は，2013年にイロペリドンの 後発医薬品について商業目的で医薬品 簡略承認申請（ANDA）を行った。この時点で’610特許は発行前で，FDAの「承認医薬品の治療学的同等性評価」（オレンジブック）には’198特許のみ掲載 されており，Ｗ社は’198特許が無効または侵害されないとするパラグラフ�絃斂製颪鬘崋劼冒�付した。これを受け，Ｖ社はＷ社に対して’198特許の侵害訴訟を地裁に提起した（2013年11月）。 この間に’610特許が発行され，Ｖ社はさらに’610特許の侵害訴訟も提起し（2014年６月），地裁により両訴訟が併合された。その後，2015年１月にＶ社は’610特許をオレンジブックに掲載し， 同５月にＷ社は’610特許が無効または侵害しないとするパラグラフ�絃斂製颪鬘崋劼冒�付し，該証明を含むようにANDAを補正した。地裁は，Ｗ社がANDAで提出した製品が侵害を誘引するとして’ 610特許の侵害を認定し，また’610特許は無効でないと判断した。Ｗ社は地裁判決を不服として，CAFCに控訴した。
Ｗ社はまた，’610特許のクレームについて，イロペリドン，特定の薬物代謝酵素の活性，及び該活性に関連する症状リスクの間に元来存在する関係性自体を対象としており，特許法101条の下で 特許適格性がないと主張したが，CAFCは，対象クレームは単に関係性を列挙したものでなく，その関係性に基づき，特定の結果を達成するために特定の組成物を特定量用いる，特定の患者に向けた 特定の治療方法であり，特許適格性を有すると判断した。
以上のように，CAFCは，’610特許の有効性とＷ社の侵害を認定する地裁判決を支持した。
Ｖ社は，2009年にイロペリドンについて米国食品医薬品局（FDA）の新薬承認申請（NDA）の承認を受けた。 West- Ward Pharmaceuticals International Ltd.（Ｗ社）は，2013年にイロペリドンの 後発医薬品について商業目的で医薬品 簡略承認申請（ANDA）を行った。この時点で’610特許は発行前で，FDAの「承認医薬品の治療学的同等性評価」（オレンジブック）には’198特許のみ掲載 されており，Ｗ社は’198特許が無効または侵害されないとするパラグラフ�絃斂製颪鬘崋劼冒�付した。これを受け，Ｖ社はＷ社に対して’198特許の侵害訴訟を地裁に提起した（2013年11月）。 この間に’610特許が発行され，Ｖ社はさらに’610特許の侵害訴訟も提起し（2014年６月），地裁により両訴訟が併合された。その後，2015年１月にＶ社は’610特許をオレンジブックに掲載し， 同５月にＷ社は’610特許が無効または侵害しないとするパラグラフ�絃斂製颪鬘崋劼冒�付し，該証明を含むようにANDAを補正した。地裁は，Ｗ社がANDAで提出した製品が侵害を誘引するとして’ 610特許の侵害を認定し，また’610特許は無効でないと判断した。Ｗ社は地裁判決を不服として，CAFCに控訴した。
［CAFCの判断］
Ｗ社は，ANDAの手続が’610特許の発行前であるため特許法271条（e）（2）（A）下の侵害行為に当たらないと主張したが，CAFCは，Ｗ社が’610特許の発行後にそれに対するパラグラフ Ⅳ証明書を含むようにANDAを補正した行為により侵害が成立すると判断した。さらにCAFCは，特許法271条（e）（2）（A）下の侵害を成立させるために，特許権者が医師による直接侵害の実例を証明する 必要はないというＶ社主張を支持し，特許法271条（e）（2）（A）により，特許権者はある薬が上市された際に自身の特許を侵害するか裁判所に決定させることができると述べた。Ｗ社はまた，’610特許のクレームについて，イロペリドン，特定の薬物代謝酵素の活性，及び該活性に関連する症状リスクの間に元来存在する関係性自体を対象としており，特許法101条の下で 特許適格性がないと主張したが，CAFCは，対象クレームは単に関係性を列挙したものでなく，その関係性に基づき，特定の結果を達成するために特定の組成物を特定量用いる，特定の患者に向けた 特定の治療方法であり，特許適格性を有すると判断した。
以上のように，CAFCは，’610特許の有効性とＷ社の侵害を認定する地裁判決を支持した。
（廣本 敦之）
