専門委員会成果物
特許ライセンス契約の終了は回復不能な損害と判断した事例
CAFC判決 2018年2月7日MACOM Technology Solutions Holdings, Inc., et al. v. Infineon Technologies Americas Corporation
［経緯］
Nitronex, LLC（Ｎ社）は，GaNを用いた半導体の特許を保有していた。Ｎ社は，特許をInternational Rectifier
Corporation（IR社）に売却すると共に，IR社から特許のライセンスバックを 受ける契約を締結した。上記契約では，Ｎ社はGaN-on-Si技術をField
of Use only（許諾範囲）とする独占実施が認められていた。その後，Ｎ社は，MACOM Technology Solutions Holdings,
Inc.（Ｍ社）に， IR社は，Infineon Technologies Americas Corporation（IT社）にそれぞれ買収された。IT社は，Ｍ社がGaN-on-SiC技術を使用することは，上記契約の許諾範囲違反と指摘し，上記契約を終了した。地裁は，
上記契約の終了の仮差止めを認めた。これを不服として，IT社はCAFCに控訴した。
［CAFCの判断］
IT社は仮差止め４要件のうち，２つの要件について反論したが，CAFCはいずれも認めず，地裁判決を支持すると判示した。
要件� �本案勝訴の合理的可能性
IT社は，上記契約の許諾範囲を根拠にＭ社によるGaN-on-SiC技術の使用は，許諾範囲外であり，上記契約において準拠法としているカリフォルニア州法に内在する「契約には善意かつ公正に
取引を行う」条項に違反すると主張した。
CAFCは，IT社が許諾範囲の「only」と言う文言に頼りすぎているとして，GaN-on-SiC技術の使用は上記条項に違反しないと判断した。
要件�◆В夕劼�被る回復不能な損害
上記契約においてＭ社がGaN特許をGaN-on-Siの範囲で独占実施できると規定しているが，IT社は，GaN-on-Siをベースとする製品をマーケティングしていた。Ｍ社はIT社による上記
マーケティングが契約違反と主張しなかった。これを根拠にIT社は，Ｍ社は回復不能な損害を被ることはないと主張した。
CAFCは，上記契約が終了すればＭ社が独占実施権を失うとして，たとえIT社が特許発明を実施していなくても，契約の終了とＭ社の回復不能な損害には因果関係があると判断した。
（濱口 礼雅）
