抄録 |
生物資源を維持し、研究し、持続的に利用することを目的として、世界各国が共同行動をとるために、1992年5月、国連環境計画(UNEP)において生物多様性条約(Convention on Biological Diversity、以下CBD)が採択された。CBDは単なる生物保護条約ではない。途上国の関心は生物資源の商業的利用にあり、CBDは生物資源に関する国家主権(資源ナショナリズム)を容認し、利益配分の義務について規定した。この規定は知的財産との関係が深く、WIPOも検討を始めた。第1に、生物資源の法的保護のために固有の法制が必要か。第2に、生物資源を利用した発明について特許出願を行う場合、資源の出所を明細書に記載することを義務とするか。第3に、特許の共有や技術移転の問題をどう扱うか。CBDの生物資源の問題は、伝統的知識の問題とともに、2002年に始まるWTO新ラウンドの主要議題でもある。CBDと知的財産の関係はすでにいくつかの論文で指摘されているところであるが、本稿では特にCBDの生物資源条項(15条)の意味を交渉の経緯に遡って明らかにし、同条に関する最近の国際交渉の論点を横断的に整理することに重点を置いた。本稿の狙いは、アジア諸国が続々とCBD実施のための新法を整備する中、日本企業に新しいリスクと開発機会が生まれつつあることを指摘し、企業の方々や実務家の関心を喚起することにある。もう1つの狙いは、我が国の政策関係者や研究者に総合的な国際知的財産戦略と生物資源国家戦略の必要性を検討するための素材と視点を提供することにある。 |