抄録 |
本判決は、遺伝的に新規な植物の育種に関する特許、いわゆる植物特許について、最高裁が初めて判断し、その特許性を認めたものである。古くは、本件のように交配、選抜等の伝統的な育種方法による植物育種に関しては、育種過程の反復可能性が問題とされ、育種過程の再現の確率が極めて低いので反復可能性はないとして、発明の成立性を否定する学説が有力であり、特許庁の審査運用もこれに従ってきた。ところが、1975年特許庁は、欧米並の強い植物保護を求める民間の要望等に動かされて審査基準「植物新品種」を公表し、従来の運用を180度転換して、育種過程の再現の確率の高低は問わず理論的反復可能性があれば足るとし、植物育種の特許性を認めることとした。本件黄桃の育種増殖法もこの基準の考え方に従って特許されたものである。本判決は、本件発明の目的は育種された黄桃の自己増殖によって達成できるので、育種過程の再現の確率は低くてもよいとして、育種過程の反復可能性を理論的に認めた。まさに保護すべき発明の実態に柔軟に即応した画期的判決であると考えられる。そして、本判決は育種過程の再現の確率の低い、伝統的育種法による植物育種の特許性に関し、重要な指針を与えたものである。 |