「知財管理」誌

Vol.50 記事詳細

掲載巻(発行年) / 号 / 頁 50巻(2000年) / 12号 / 1837頁
論文区分 判例と実務シリーズ
論文名 No.267 先使用権――特に「事業の準備」について ―「ジフェニルカーボネートの製造方法」事件―
著者 松本武彦
抄録 特許侵害訴訟の場において、先使用権は、特許権の行使に対する抗弁として主張される。しかし、知財管理の現場においては、近時、訴訟に至らない段階でも、先使用権の存否が問われることが多くなってきた。技術開発の多様化、多発化に伴い、多くの新規技術が生まれるが、これらのすべてを出願する訳には行かず、当面の新規技術を出願すべきか否かの検討をしている最中に、当該技術が他社に先行出願されてしまっていたことが判明し、当該技術を事業化するための準備行為が先使用権主張のための要件を満たしているか否かを問われるのである。本件判決は、先使用権の成立要件と効力範囲について説示した最高裁昭和61年10月3日判決以降に出た初めての大型事件判決であり、技術導入による化学的方法の実施につき、上記最高裁判決の説示に沿い、技術導入契約とプラント基本設計に対する対価の支払いをもって、「事業の準備」が認められるための要件の一つたる「即時実施の意図」を認めるとともに、もう一つの要件たる「客観的表明」がなされている、すなわち、この即時実施の意図が客観的に認識される程度に表明されているとして、被告の先使用権の主張を認容した。
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