抄録 |
本件事件は、実用工業製品の設計図上の記述に関して、「その表現の対象となるものは実用工業製品のデザインであって著作物とはいえない。また、当該設計図の記述はいずれも設計図に関する一般的知識を有する者であれば誰でも理解できる一般的な製図法のルールに従って作成されたものであり、その表現方法に創作性を見出すことはできない。」との理由で著作物性を否定した判例である。一般に著作権法の保護対象が「表現」であって「アイデア」でないことは争いがなく、設計図は設計者の意図する設計思想を正確に伝達する手段にすぎないから、その著作物性は、創作的表現といえる部分の有無だけでなく、(a)設計図の記述が対象工業製品に関する技術・設計思想を表現する方法として選択の余地のあるものであるか否か、(b)仮に設計図の記述を著作物として保護した場合に、設計者の思想・感情を正確に伝達するという設計図の機能そのものが大きく損なわれるおそれはないかを基準として判断すべきであろう。なお、本判決が、設計図の著作物性を否定しながら他人が作成した設計図を利用して自己の機械の設計を行う等の一連の反公序良俗行為(不正競業行為)を不法行為とした点についても先例的意義がある。 |