抄録 |
ドイツのBBS社がドイツで製造しドイツ国内市場で販売したタイヤホイールが日本に輸入され、その輸入と日本国内での販売がBBS社の日本特許を侵害するとして提起された特許権侵害差止め等の訴訟は、最高裁判所平成7年(オ)第1988号として第三小法廷で審理され、平成9年7月1日、小数意見が付されることなく、原審東京高等裁判所の判決が維持され、並行輸入業者勝訴の結果を以て終結した。しかしながら、並行輸入を特許侵害でないとした最高裁の判決理由は、東京高裁が非侵害とした理由、即ち、特許権の国際的消尽を正面から肯定した判断理由とは異なる理由であった。最高裁は国際消尽論に基づいてBBSのタイヤホールの輸入を特許権非侵害とはしなかったにかかわらず、他の理由によって非侵害と判断した。裁高裁判決は、イギリスにおいて認められてきた黙示のライセンス、いわゆるインプライド・ライセンス(Implied License)の考え方に沿った考え方を採ったと解される。インプライド・ライセンスと特許権者に、かなりの負担を負わせる制度であり、イギリスの研究指向型企業の好まざるところであると理解しているが、同時に訴訟を多発される要素を抱えていることも否定し難い。本稿では、裁高裁判決を批判するのではなく、その判決のもたらす問題点を、企業的立場から検討したい。 |