抄録 |
特許性を有するコンピュータ・ソフトウエアの保護に関しては、近年、コンピュータ・プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体に対して、日米で特許が認められるようになり、その保護の実効性が高まった。しかし、ネットワーク技術の急速な発展は、プログラムが有体物たる記録媒体に化体されることなく流通することを可能にし、新たな問題を突きつけている。これは、技術的思想を有体物に化体し「物の発明」として保護を図る従来の特許法の枠組みとの連続性を切断する流通形態である。本稿の目的は、このような流れのなかで、ネットワーク上におけるコンピュータ・ソフトウエアの特許法による保護の解釈論および立法論を展開することである。まず、考察をすすめる準備として、特許法の保護の構造について、クレームの多項制とカテゴリーが、技術およびその産業上の利用行為の実体を反映して、産業上の利用行為を漏れなくカバーするための法技術であり、クレームは技術的思想を物または方法に投影したものであることを論証した。続いて、プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、その機能性、部品性から産業上利用される物であり、技術的思想を物に投影した「物の発明」として特許法の保護対象となり得ることを論証した。また、プログラム自体は、その語義の曖昧さのため、必ずしも機能性、部品性を有するとはいい難く、また実施行為の規定も困難であるから、特許法の保護対象とはならず、プログラムに関するカテゴリーを設けるならば、例えば「プログラム信号」というカテゴリーとすべきであることを論証した。さらに、コンピュータ・ソフトウエアの保護における特許法と著作権法の関係についても検討した。最後に、ネットワーク上でのプログラムの産業上の利用行為に対し、プログラムを記録した記録媒体のクレームによってどこまで特許法の保護範囲とできるのかについて検討し、一部の産業上の利用行為については、刑事責任を問うことが難しく、将来的に法改正の必要性があることがわかった。 |