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専門委員会成果物
明細書の記載及び審査経過に基づき,クレーム用語の記載は不明確でないと判断された事例
CAFC判決 2022年1月27日Nature Simulation Systems Inc. v. Autodesk, Inc
[経緯]
Nature Simulation Systems Inc.(N社)は,ブール演算を用いて3次元オブジェクトを構築するためのコンピュータ実装方法に関する2件の特許(特許10,120,961(’961特許),特許10,109,105(’105特許))を保有している。N社は,Autodesk, Inc.(A社)が’961特許及び’105特許を侵害しているとして地裁に提訴した。
A社は,’961特許及び’105特許の対象クレームは不明確であり,112条(b)に基づき無効であると主張した。
マークマン・ヒアリングの結果,地裁は2つの用語が不明確であると判断し,対象クレームを無効と決定した。これらの用語は審査過程において文言の明確化のための補正で追加されたものであった。A社の専門家は当該用語について複数の疑問を挙げ,当業者はその用語を理解できないと主張した。N社は,それらの疑問に対する答えは明細書中で説明されていると反論した。地裁は,A社が提起した疑問を引用し,N社がこれらの疑問に回答していないことを指摘した。また疑問に対する答えが明細書中にあったとしても,クレーム中に答えが無ければ明確性の要件は満たされないと述べ,クレームは不明確であるとした。
N社は,地裁が誤った法的基準を適用したとしてCAFCに控訴した。
多数派は,クレームの役割は権利範囲を定義することであり,明細書と審査経過の文脈によって理解されることを強調した。そして,これらの基準に従ってクレーム解釈を行わず,クレーム文言のみに依拠して不明確とした地裁の分析には欠陥があると指摘した。また,地裁において不明確とされた文言について,審査における過程も重視した。当該文言は,審査官による不明確との拒絶の後,出願人及び審査官による補正により追加されて許可された。審査官のアクションに対しては,公的機関のものとして適切な敬意を払う必要がある(Tinnus Enters., LLC v. Telebrands Corp., 733 F. App’x 1011, 1020(Fed. Cir. 2018))。地裁はこの補正について議論していないと指摘し,判決を差し戻した。
なお,Dyk判事は地裁を支持する反対意見を述べた。地裁は明細書に照らしてクレームを解釈しており,クレームの記載には明細書の記載と矛盾する限定が追加されているという問題がある。この問題に言及せずに,これらの限定が審査官によって示唆されたという事実に依拠するに過ぎない多数派の意見には反対する,とした。
A社は,’961特許及び’105特許の対象クレームは不明確であり,112条(b)に基づき無効であると主張した。
マークマン・ヒアリングの結果,地裁は2つの用語が不明確であると判断し,対象クレームを無効と決定した。これらの用語は審査過程において文言の明確化のための補正で追加されたものであった。A社の専門家は当該用語について複数の疑問を挙げ,当業者はその用語を理解できないと主張した。N社は,それらの疑問に対する答えは明細書中で説明されていると反論した。地裁は,A社が提起した疑問を引用し,N社がこれらの疑問に回答していないことを指摘した。また疑問に対する答えが明細書中にあったとしても,クレーム中に答えが無ければ明確性の要件は満たされないと述べ,クレームは不明確であるとした。
N社は,地裁が誤った法的基準を適用したとしてCAFCに控訴した。
[CAFCの判断]
CAFCはN社の主張を認め,2対1の多数意見により地裁判決を覆した。多数派は,クレームの役割は権利範囲を定義することであり,明細書と審査経過の文脈によって理解されることを強調した。そして,これらの基準に従ってクレーム解釈を行わず,クレーム文言のみに依拠して不明確とした地裁の分析には欠陥があると指摘した。また,地裁において不明確とされた文言について,審査における過程も重視した。当該文言は,審査官による不明確との拒絶の後,出願人及び審査官による補正により追加されて許可された。審査官のアクションに対しては,公的機関のものとして適切な敬意を払う必要がある(Tinnus Enters., LLC v. Telebrands Corp., 733 F. App’x 1011, 1020(Fed. Cir. 2018))。地裁はこの補正について議論していないと指摘し,判決を差し戻した。
なお,Dyk判事は地裁を支持する反対意見を述べた。地裁は明細書に照らしてクレームを解釈しており,クレームの記載には明細書の記載と矛盾する限定が追加されているという問題がある。この問題に言及せずに,これらの限定が審査官によって示唆されたという事実に依拠するに過ぎない多数派の意見には反対する,とした。
(今村 真之)
