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専門委員会成果物
当業者の観点に照らして否定的限定が記述要件を満たすとされた事例
CAFC判決 2022年1月3日Novartis Pharmaceuticals Corp. v. Accord Healthcare, Inc., et al.
[経緯]
Novartis Pharmaceuticals Corp.(N社)は,再発寛解型多発性硬化症の治療薬であるフィンゴリモド塩酸塩(米国製品名「Gilenya」)に関する特許9,187,405(’405特許)の特許権者である。HEC Pharm Co., LTD(H社)を含む数社が,Gilenyaの後発薬の製造販売を目的として略式新薬申請(ANDA)を申請したため,N社は,H社のANDA製品が’405特許を侵害するとして地裁に提訴した。
H社は,’405特許のクレームの「事前の負荷投与無しに」という否定的限定が,特許法112条(a)の記述要件を満たしていないとして特許無効を主張した。
地裁は,「事前の負荷投与無しに」との文言自体が明細書にないことは認めつつも,当業者は明細書に記載された実験例などに基づいて事前の負荷投与が無かったと理解する,と結論づけた。「事前の負荷投与無しに」との否定的限定は記述要件を満たすとしてH社の主張を退け,’405特許の有効性及びANDA製品の特許権侵害を認定した。
それに対して,H社は,記述要件を満たすとした地裁判決は誤りであるとして,CAFCに控訴した。
また,否定的限定に関する記述要件の基準は過去のCAFC判決に定められていないとし,記述要件は当業者が明細書をどう理解するかが重要であって,発明の開示は任意の形式で表現されてよいと判示した。さらに,暗黙的な開示であってもクレームはサポートされるとのMPEPの記載を引用した。
そして,「事前の負荷投与があれば明細書に言及があるのが当然である」「「一日量」に事前投与は含まれない」などの専門家意見を当業者の観点として採用し,’405特許の否定的限定は,当業者の観点に照らせば明細書の記述から当業者に十分に理解されうると認定し,地裁判決を支持した。
なお,本判決には反対意見があったものの,地裁判決を支持するとの多数意見が採用された。
H社は,’405特許のクレームの「事前の負荷投与無しに」という否定的限定が,特許法112条(a)の記述要件を満たしていないとして特許無効を主張した。
地裁は,「事前の負荷投与無しに」との文言自体が明細書にないことは認めつつも,当業者は明細書に記載された実験例などに基づいて事前の負荷投与が無かったと理解する,と結論づけた。「事前の負荷投与無しに」との否定的限定は記述要件を満たすとしてH社の主張を退け,’405特許の有効性及びANDA製品の特許権侵害を認定した。
それに対して,H社は,記述要件を満たすとした地裁判決は誤りであるとして,CAFCに控訴した。
[CAFCの判断]
CAFCは,記述要件を満たす明細書とは,クレームした主題を当業者に対して合理的に伝達するものであり,当業者の観点から明細書の隅々を客観的に検証することが要求されると説明した。また,否定的限定に関する記述要件の基準は過去のCAFC判決に定められていないとし,記述要件は当業者が明細書をどう理解するかが重要であって,発明の開示は任意の形式で表現されてよいと判示した。さらに,暗黙的な開示であってもクレームはサポートされるとのMPEPの記載を引用した。
そして,「事前の負荷投与があれば明細書に言及があるのが当然である」「「一日量」に事前投与は含まれない」などの専門家意見を当業者の観点として採用し,’405特許の否定的限定は,当業者の観点に照らせば明細書の記述から当業者に十分に理解されうると認定し,地裁判決を支持した。
なお,本判決には反対意見があったものの,地裁判決を支持するとの多数意見が採用された。
(山田 正大)
