専門委員会成果物

欧州特許庁審判部,AIは欧州特許出願の発明者になれないことを確認

 欧州特許庁(EPO)審判部は,2つの事件(J8/20及びJ9/20)の公開口頭審理において,欧州特許出願において指定される発明者は人間でなければならないことを確認した1),2)。
 EPO審判部は,DABUSと呼ばれるAIシステムが発明者として指定されている2件の欧州特許出願(EP18275163及びEP18275174)を拒絶したEPO受理部の決定を追認した。さらに,自然人がDABUSの所有者及び創作者であることにより当該自然人が欧州特許を受ける権利を有すると主張する予備的請求についてもEPO審判部は棄却した。

背景
 欧州特許条約(EPC)81条によれば,出願人は発明者を指定しなければならない。さらに,EPC60条(1)によれば,欧州特許を受ける権利は,発明者又はその承継人に帰属する。
 上記2つの事件では,欧州特許出願をする際に,出願人は,法的能力を有しない機械を発明者として指定できるかどうかが論点となった。AIシステムDABUSを発明者とする発明は,EPOを含む複数の特許庁に出願された。出願人は,当該発明はDABUSによって自律的に創作されたものであると主張した。
 発明者の指定は,EPC81条及びEPC規則19(1)に規定される特許出願が満たすべき方式要件である。この方式要件の審査は,実体審査に先立って,かつ,実体審査から独立して行われる。その際,特許性の要件を満たしているか否かは考慮されない。
 EPO受理部は上記2件の欧州特許出願を拒絶した。その拒絶の決定において,出願人が提出した発明者の指定は,二つの理由からEPC81条に適合しないと判断された。第一に,EPO受理部は,人間のみがEPCの発明者となり得ると結論した。そして,機械を発明者として指定することは,EPC81条及びEPC規則19(1)に規定された要件を満たさないと判断した。第二に,EPO受理部は,いかなる権利も機械から出願人に移転することはないとの見解を示した。そして,EPO受理部は,当該機械を出願人が所有していることを理由に出願人が承継人となる旨の陳述は,EPC60条(1)及びEPC81条の要件を満たさないと判断した。

主な考慮事項
 口頭審理の終了時に,EPO審判部は,上記2つの事件において,審判請求を棄却し,口頭で次の理由を述べた。

  • EPCの下では,発明者は法的能力を有する者でなければならない。少なくともこの理由で,主位的請求は認容できない。
  • 予備的請求に関して,EPC81条第2文に基づく欧州特許を受ける権利の出所を示す陳述は,EPC60条(1)に適合していなければならない。
  • EPOは,その陳述がEPC60条(1)に含まれる状況に言及しているかどうかを評価する権限を有する。
詳細な理由を付した決定書は,当事者に送付され,その後,EPO審判部のデータベースにおいて公開される。

注 記

  1. EPOニュース(2021年12月21日) AI cannot be named as inventor on patent applications https://www.epo.org/news-events/news/2021/20211221.html
  2. Press Communiqué on decisions J8/20 and J9/20 of the Legal Board of Appeal https://www.epo.org/law-practice/case-law-appeals/communications/2021/20211221.html

(参照日:2022年1月22日)

(直井 雄作)

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