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専門委員会成果物
自明性の判断が実質的な証拠に基づいていないとしてPTABの決定が誤りであると判断された事例
CAFC判決 2021年11月4日University of Strathclyde v. Clear-Vu Lighting LLC
[経緯]
University of Strathclyde(S大学)の特許9,839,706号(’706特許)は,光増感剤を使用せずに400〜420nmの可視光(青色)を照射することでMRSAなどの細菌を不活性化する技術に関する。請求項には,光増感剤を使用しないこと,MRSAなどの細菌を不活性化する方法であること,などが記載されている。
一方,Clear-Vu Lighting LLCによるIPRの請願によって,PTABは特許クレームがAshkenaziとNitzanの組み合わせによって自明であり,無効であると判断した。PTABは,Ashkenaziには光増感剤を使用せずに光を照射しMRSAなどの細菌の不活性化を達成できていない内容が開示されているが,照射の条件によって不活性化の程度が変わるという教示を基に,当業者はMRSAについても少なくとも「ある程度の」不活性化は達成されると期待するとした。そして,’706特許の請求項には不活性化の程度を記載していないことから,PTABは,’706特許を自明であるとした。
これに対してS大学はCAFCに控訴した。
CAFCは,Ashkenaziには照射条件により不活性化の程度が変わることが開示されているが,Ashkenaziにも,組み合わせられたNitzanにも,光増感剤なしで不活性化できるという開示も示唆もないとした。すなわち当業者が光増感剤を完全に省略することを選択する理由が無く,先行文献はクレームの全要件を開示しているとしたPTABの判断は誤りであり,AshkenaziとNitzanの組み合わせより教示されるという判断は実質的な証拠に基づいていないと判示した。
また,PTABは,青可視光がポルフィリンを産生する細菌細胞を不活性化する可能性があるとするAshkenaziの教示を基に,Ashkenaziにおいて光活性化されたポルフィリン分子が細菌の不活性化を生じていることが認められるので,MRSAがいくばくかのポルフィリンを産生するという事実より,当業者はMRSAもまた,407〜420nmの可視光照射後にある程度不活性化されるだろうと予想する,と判断した。
CAFCは,’706特許出願当時,そのような仮説を裏付ける証拠は存在せず,実際,Nitzanらは逆の結果を示していた,とした。どんな細菌も光増感剤を使わずに407〜420の可視光を照射した後不活性化するという証拠はないばかりでなく,他の研究者が,光の照射量や波長を振った実験にもかかわらず,光増感剤なしでMRSAの不活性化に失敗したことを示す証拠はあったことから,そのような失敗が成功への期待を損なうものであるとCAFCは判断した。
一方,Clear-Vu Lighting LLCによるIPRの請願によって,PTABは特許クレームがAshkenaziとNitzanの組み合わせによって自明であり,無効であると判断した。PTABは,Ashkenaziには光増感剤を使用せずに光を照射しMRSAなどの細菌の不活性化を達成できていない内容が開示されているが,照射の条件によって不活性化の程度が変わるという教示を基に,当業者はMRSAについても少なくとも「ある程度の」不活性化は達成されると期待するとした。そして,’706特許の請求項には不活性化の程度を記載していないことから,PTABは,’706特許を自明であるとした。
これに対してS大学はCAFCに控訴した。
[CAFCの判断]
CAFCは,PTABの先行文献がクレームの全要件を開示しているとする判断,及び,成功への期待があったとする判断が,いずれも実質的な証拠に基づいていないとして,PTABの決定を棄却した。CAFCは,Ashkenaziには照射条件により不活性化の程度が変わることが開示されているが,Ashkenaziにも,組み合わせられたNitzanにも,光増感剤なしで不活性化できるという開示も示唆もないとした。すなわち当業者が光増感剤を完全に省略することを選択する理由が無く,先行文献はクレームの全要件を開示しているとしたPTABの判断は誤りであり,AshkenaziとNitzanの組み合わせより教示されるという判断は実質的な証拠に基づいていないと判示した。
また,PTABは,青可視光がポルフィリンを産生する細菌細胞を不活性化する可能性があるとするAshkenaziの教示を基に,Ashkenaziにおいて光活性化されたポルフィリン分子が細菌の不活性化を生じていることが認められるので,MRSAがいくばくかのポルフィリンを産生するという事実より,当業者はMRSAもまた,407〜420nmの可視光照射後にある程度不活性化されるだろうと予想する,と判断した。
CAFCは,’706特許出願当時,そのような仮説を裏付ける証拠は存在せず,実際,Nitzanらは逆の結果を示していた,とした。どんな細菌も光増感剤を使わずに407〜420の可視光を照射した後不活性化するという証拠はないばかりでなく,他の研究者が,光の照射量や波長を振った実験にもかかわらず,光増感剤なしでMRSAの不活性化に失敗したことを示す証拠はあったことから,そのような失敗が成功への期待を損なうものであるとCAFCは判断した。
(豊田 良平)