専門委員会成果物

明細書に開示された抗体よりもはるかに多数の抗体を含み得るクレームを実施するためには過度の実験を要するとして,実施可能要件違反とされた事例

CAFC判決 2021年2月11日
Amgen Inc., et al. v. Sanofi, et al.

[経緯]

 Amgen Inc.ら(A社)は,プロ蛋白質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)に結合し,PCSK9が低比重リポタンパク質(LDL)受容体に結合するのを阻害することでLDLレベルを低下させる抗体に関する特許8,829,165(’165特許)および特許8,859,741(’741特許)を保有する。’165特許および’741特許では,PCSK9の15の残基の少なくとも一つに結合することでPCSK9がLDL受容体に結合するのを阻止し得る多数の抗体がクレームされている一方,明細書には26の抗体のアミノ酸配列のみが開示されている
 A社は,’165特許と’741特許クレームの実施可能要件の欠如について地裁がJMOLを認めた決定に対して控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,まず実施可能性の欠如についてIn re Wands, 858 F.2d 731, 736-37(Fed. Cir. 1988)を引用し,当業者が過度の実験なしではクレームされた発明が実施不可であることを明確且つ説得力ある証拠によって示さなければならないとした。そして,過度の実験が必要かどうかについて,Wandsで挙げられた8要素を示し,特に予測可能性と指針が不十分である場合,機能的要件を含むクレームが実施可能であるかは,それらの要求範囲にフォーカスされるとした。そして,開示されている実施形態の数だけでなくクレームの全範囲について,製造及び使用に必要な実験の量を考慮することが重要であるとした。
 CAFCは,実施形態の正確な数に関わらず,クレームの範囲が開示された例よりも機能的な多様性においてはるかに広いことは明らかであるとした。また,クレームされた発明が機能的制限の全範囲を充足させるという点で予測不可能な科学の分野にあるとした。
 次にCAFCは,特許に開示されたロードマップが,開示例に類似した結合性を備えた抗体を作り出すための指針を提供していたとしても,この開示された例の狭い範囲を超えて,はるかに多数の抗体を作り出すうえで適切な指針が与えられたとはいえないとした。さらに,当業者が開示されていないクレームの抗体を発見するには,ロードマップに従って開示された抗体に変更を加え,スクリーニングすることで所望の結合性や遮断性を得るための試行錯誤を行うこと等が必要であり,かなりの時間と労力を要するとした。
 以上よりCAFCは,クレームの全範囲を実施するためには過度の実験が必要であると結論し,地裁の決定を支持した。

(丸山 佳彦)

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