専門委員会成果物

当業者が合理的な注意を払ってアクセス可能である文献は特許法102条における印刷刊行物に該当すると判示した事例

CAFC判決 2021年2月1日
M & K Holdings, Inc. v. Samsung Electronics Co., Ltd.

[経緯]

 M & K Holdings, Inc.(M社)は,ビデオファイルを圧縮する方法に関する特許9,113,163(’163特許)を保有している。
 Samsung Electronics Co., Ltd.(S社)は’163特許の全てのクレームが引用文献に基づき特許性がないとしてIPRの請願を行った。M社は,S社が引用した文献は高効率ビデオコーディング(HEVC)の業界標準を確立するための合同研究チーム(JCT-VC)の開発会議で提出されたものに過ぎず,公共アクセス可能ではなかったとして,特許法102条の「印刷刊行物」に該当しないと主張した。
 PTABはM社に同意せず,S社が引用した文献は’163特許の優先日前に公共アクセス可能であったと結論付けた。
 M社は,この決定を不服としてCAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,「印刷刊行物」に関するPTABの決定を支持した。
 S社が引用した文献は200〜300人が参加したJCT-VCの開発会議で提出されたものであり,参加者は当該文献について機密ではない状態で議論をした。議論内容はJCT-VCの会議報告で要約された。その会議報告の読者は当該文献がアップロードされているJCT-VCのウェブサイトを訪れる動機付けがあった。また,JCT-VCはビデオコーディング技術の当業者間のコミュニティで著名であった。そのため,当業者が製品やサービスを開発途上のHEVCの標準に適合させるためにJCT-VCのウェブサイトを定期的に訪問する動機付けがあった。
 M社は,JCT-VCのウェブサイトが文献収録について十分な説明と検索機能を提供しておらず,公共アクセス可能ではなかったと主張した。CAFCは,関心のあるユーザーが合理的な注意を払って文献を見つけることが可能であればM社の主張する点は必須ではないとして,M社の主張を却下した。JCT-VCの著名性を考慮すると,当該ウェブサイトを閲覧する当業者は,メンバー間の会議や交流を通じてHEVCの業界標準を確立するというJCT-VCの目的に合わせて当該ウェブサイトが構成されていることを理解しているため,文献が収録されているページに気づき,当該文献を検索することができた。また,当該ページにはタイトル検索機能があること,文献に内容を説明するようなタイトルが付与されていることから,文献が主題ごとに効果的に索引付けされており,当該文献を検索することができた。
 以上より,CAFCは,JCT-VCが当業者にとって著名であり,そのことにより当業者がJCT-VCのウェブサイトから目的の文献を検索することが可能であったことから,当業者がJCT-VCのウェブサイトを通じて合理的な注意を払って当該文献にアクセス可能であったと判断し,PTABの決定を支持した。

(成田 涼一)

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