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専門委員会成果物
被控訴人が侵害訴訟を行う可能性がなくなり,控訴人が侵害訴訟を提起される根拠を持たなければ,IPR決定に対する控訴は訴訟性を有さないと判断された事例
CAFC判決 2021年1月6日ABS Global, Inc. v. Cytonome/ST, LLC
[経緯]
Cytonome/ST, LLC(C社)は,マイクロ流体デバイス及びマイクロ流体システムを構成する方法に関する特許8,529,161(’161特許)を保有する。2017年6月,C社は,ABS Global, Inc.(A社)を被告として,地裁に特許権侵害訴訟を提起した。これに対しA社は,’161特許の全クレームを対象としてIPRをPTABに申し立てた。
PTABは,’161特許の一部のクレームについて無効とする決定をした。PTABによるIPR決定の2週間後,地裁は「A社の製品は,’161特許の全クレームに対して非侵害である」との略式判決を下した。略式判決の約2月後,A社は,PTABが有効と判断したクレームについて,IPR決定に対する控訴をCAFCに提起した。
控訴審において,2019年11月にA社は控訴趣意書を提出し,その3ヵ月後にC社は答弁書を提出した。C社が提出した答弁書は,「地裁が下した非侵害の略式判決に対して,C社は控訴しないことを選択する。」と述べたC社の代理人弁護士による宣誓供述書を含んでいた。また,C社は,答弁書において,「C社は地裁で控訴しないため,A社に事実上の損害が生じることはない。そのため,A社は原告適格を有さない」と主張した。これに対し,A社は「この控訴で問題となるのは原告適格ではなく,訴訟性の喪失(mootness)である。C社は今までに複数の訴訟を提起しており,今後も新たな訴訟を提起する可能性があるため,この控訴は訴訟性を有する。」と反論した。
PTABは,’161特許の一部のクレームについて無効とする決定をした。PTABによるIPR決定の2週間後,地裁は「A社の製品は,’161特許の全クレームに対して非侵害である」との略式判決を下した。略式判決の約2月後,A社は,PTABが有効と判断したクレームについて,IPR決定に対する控訴をCAFCに提起した。
控訴審において,2019年11月にA社は控訴趣意書を提出し,その3ヵ月後にC社は答弁書を提出した。C社が提出した答弁書は,「地裁が下した非侵害の略式判決に対して,C社は控訴しないことを選択する。」と述べたC社の代理人弁護士による宣誓供述書を含んでいた。また,C社は,答弁書において,「C社は地裁で控訴しないため,A社に事実上の損害が生じることはない。そのため,A社は原告適格を有さない」と主張した。これに対し,A社は「この控訴で問題となるのは原告適格ではなく,訴訟性の喪失(mootness)である。C社は今までに複数の訴訟を提起しており,今後も新たな訴訟を提起する可能性があるため,この控訴は訴訟性を有する。」と反論した。
[CAFCの判断]
CAFCは,「この控訴で問題となるのは,自発的停止の法理(voluntary cessation doctrine)によって導かれる訴訟性の有無である」とした上で,以下の2つの理由から「A社による控訴は訴訟性を有さない」として,控訴を却下した。理由1:地裁の略式判決への控訴権をC社が放棄した事実は,C社がA社へ’161特許の侵害を主張することを禁じ,また将来的にも,A社製品に対する’161特許に関する訴訟を禁ずるものであり,権利行使を再開することを「合理的に期待できないこと」を示している。
理由2:控訴が訴訟性を有することを示すためには,C社が’161特許に基づいて更なる権利行使を行うという具体的な現在の予定を示す証拠を提示する必要があるが,A社はこれを提示していない。またA社は,’161特許を侵害する製品の開発を行う予定も,’161特許に係る製品開発に資金を費やしたことも主張しておらず,’161特許に基づいて侵害訴訟を提起されるという具体的な脅威に直面してないことをA社自身も認めている。
(森 弘喜)