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外国特許ニュース
補充国際調査機関としてのシンガポール知的財産庁の運用実態と活用メリット
シンガポール知的財産庁(Intellectual Property Office of Singapore:IPOSと称する)は,近年,英語と中国語両方からの先行技術文献調査に力を入れており,特に,世界で唯一の中国語の補充国際調査機関としても期待されます。そこで,今回,IPOSやWIPOへのヒアリングなどを通じ,その運用実態を調べるとともに,日本のPCT出願人にとっての活用メリットを検討いたしました。- 制度概要
補充国際調査(Supplementary international search:SIS)は,国際調査機関(主管庁:ISA)による国際調査報告書(ISR)に加え,主管庁とは別の国際調査機関による補充国際調査報告書(SISR)を受け取ることができるもので,2009年1月から導入された国際調査の仕組みです。
補充国際調査を通じて,主管庁による国際調査では発見されなかった先行技術文献を見つけ,国内移行後に,新たな先行技術が発見されるリスクの軽減を図ることを目的とします。 - 補充国際調査を行うための要件
補充国際調査は,表1に示す通り,請求できる期限などが決められていますが,PCT出願人であれば,誰でも,請求することができます。ただし,制度の趣旨から,補助国際調査機関(SISA)としては,主管庁とは別の官庁を選択することが必要です。表1 補充国際調査を行うための要件
主体 PCT出願人 客体 PCT出願 時期 優先日から19ヵ月以内 手続き WIPO所定の様式を用いて,英語又はフランス語にて,WIPO国際事務局へ行う 費用 必要(補充国際調査機関により異なる) 〈補充国際調査機関〉
オーストリア特許庁
欧州特許庁
フィンランド特許登録庁
ロシア特許庁
スウェーデン特許登録庁
シンガポール知的財産庁
トルコ特許商標庁
ウクライナ知的財産庁
北欧特許庁(Nordic Patent Institute)
VPI(Visegrad Patent Institute) - 補充国際調査機関としてのIPOSの運用実態と活用メリット
これらの補充国際調査機関の中で,IPOSは,英語と中国語の両方で先行技術調査ができる世界でも唯一の調査機関であるため,特に,中国語の先行技術文献を調査する補充国際調査機関として期待されます。
今回,IPOSやWIPOに対し,補充国際調査機関としてのIPOSの運用実態を確認したところ,今までにIPOSがSISAとして調査を担当した件数は,WIPOが公表するPCT Yearly Review2)に記載の通りである旨の回答を受けました。
補充国際調査を始めた2015年9月以降,まだ少数とはいえ調査件数が伸びており,IPOSを活用する企業が増えていることが分かります。表2 IPOSによる補助国際調査実績
年 件数 2016年 1件 2018年 3件 2019年 4件 - 活用メリット
IPOSは,英語と中国語両方の言語で,先行技術調査を行うことができる,世界でも珍しい官庁というメリットに加え,近年,PCT出願人からのニーズが高い,中国語文献検索精度のさらなる向上に努めており,PCT出願の国際調査においても,英語と中国語両方の調査を原則必須とし,調査に取り組んでいるとのことです3)。
さらに,中国語が不自由な出願人のために,中国語の文献を国際調査のX/Y文献として引用した場合,国際調査見解書において,当該文献の引用箇所を審査官が英語に翻訳し,理由を分かりやすく説明するように心がけているという情報もあります3)。
そうすると,日本のPCT出願人としては,中国語の文献を英語で把握できるという点からも,国際調査報告書に示された文献とは別に,中国語の新たな先行技術文献を入手したい場合の調査手段として期待できるのではないでしょうか。
- 活用メリット
注 記
- http://www.wipo.int/pct/en/appguide/index.jsp
- https://www.wipo.int/edocs/pubdocs/en/wipo_pub_901_2020.pdf
- http://www.tokugikon.jp/gikonshi/295/295kiko2.pdf
(注)「アジア・オセアニア特許情報」は,最新とは言えない情報も含め,会員に有用と思われる情報を掲載しています。内容については正確を期したつもりですが,二次情報もあり, 必ずしも情報源への確認が充分と言えない場合があります。詳細については会員各位にてご確認下さい。