専門委員会成果物
明細書の記載を参酌してクレームが限定解釈された事例
CAFC判決 2017年11月22日REMBRANDT PATENT INNOVATIONS, LLC, REMBRANDT SECURE COMPUTING, LP v. APPLE, INC.
[経緯]
REMBRANDT PATENT INNOVATIONS, LLC(R社)は,2014年地裁にAPPLE, INC.(A社)が特許6,185,678(’678特許)を侵害しているとして訴訟を提起した。R社の主張は,’678特許は安全にコンピュータシステムを初期化または起動するものであり,コンピュータの起動コンポーネントと破損した起動コンポーネントの修復について完全性を検証する クレームについてA社のiOS製品が侵害しているというものであった。
A社は非侵害を主張し略式判決の申立てを行い,地裁はA社の申立てを認め非侵害であると判断した。R社は地裁のクレーム解釈および非侵害の裁決に対して控訴したが,CAFCは地裁判断を肯定した。
[争点]
’678特許のクレームには記述がないが明細書に記載のある“人が介入することなく自動的な修復ステップ”という特徴が被疑侵害品において行われているかどうかが争点となった。
[A社の主張]
A社製品は電源が入ると完全性検証をチェックし,起動コンポーネントの完全性が検証できないときは2つの修復モードに入り,何れの修復モードであっても,自社のカスタマーサポート
WebページやサービスガイドにてユーザにiTunesの動作するコンピュータへ接続しユーザ自身で修復プロセスの開始を選択するように促しており,人が介入するものだと主張した。
そして,’678特許の明細書には“本発明はコンピュータシステムの初期化のアーキテクチャに関するものであり,起動プロセスを安全に行い,自動的に修復手順を実行する”,
“本発明は,ユーザがテクニカルサポートに電話するか,コンピュータのダウンタイムに苦しむということなく,自動的に不完全性を検出し修復することでコンピュータのトータルコスト
削減を達成する”と記載されており,A社製品は人の介入なく修復することができないため非侵害であると主張した。
[R社の主張]
R社は,クレームには自動修復の要件はなく,たとえクレームが自動修復を要件としていたとしても文言侵害または均等論侵害にあたるとし,仮に地裁のクレーム解釈が正しいとしても, A社製品はユーザがiTunesでの修復を選択するがそれ以降ユーザの介入は行われておらず,文言非侵害の略式判決は不適切であると主張した。
[CAFCの判断]
CAFCは,’678特許の明細書の記載を参酌し,クレームに自動修復の要件が明記されていないとしても,A社製品は非侵害であると判断した。CAFCは,’678特許は明細書中にて人が介入する修復プロセスである先行技術を誹謗しており,このプロセスは本発明に劣るものであると論じている点を考慮しつつ,’678特許の明細書の “自動的”という用語は開始,進行中,そして,完了において人の介入がない修復プロセスが必要である旨解釈されるとした。
よって,CAFCは地裁のクレーム解釈および非侵害の裁決に間違いはないとして地裁判決を支持した。
(浅井 興二郎)
