専門委員会成果物
“virtually”なる文言を含む構成要件について米国特許法112条の明確性の要件を具備するとした判決
CAFC判決 2017年6月12日One-E-Way, Inc. v. ITC
[経緯]
One-E-Way(O社)がSony等を被告とする侵害訴訟を,ITCに提訴した。対象特許は,無線通信を用いて音源からヘッドフォンに音楽を送信する特許であるところ,両特許の全てのクレームに“virtually free from interference((通信が)実質的に干渉しない)” なる構成要件(本件構成要件)が含まれており,本件構成要件が特許法112条の明確性を具備するか否かが争点となった。
O社は,本件構成要件は「盗聴が起こらないような不干渉性(の通信)」を指すから明確であると解釈すべきだと主張したのに対し,ALJは「本件構成要件のスコープを示す内在的または 外在的な証拠がない」として,本件構成要件は不明確と主張した。その結果,ITCはALJを支持し,本件構成要件は不明確であり特許法112条の要件を具備しないとした。これに対しO社はCAFCに控訴した。
[CAFCの判断]
O社は本件構成要件について,「あるユーザーが他のユーザーから盗聴されるのを防ぐ」と解釈できるため明確であると主張し,CAFCはこれに賛成した。その理由は以下の通りである。A)明細書に,盗聴を防止するような実施例が記載されていた。
B)両特許の審査の過程,および,O社の技術者の証言において,上記主張が一貫していた。
C)当該文言がどの程度盗聴を防ぐか定量的な基準を示していないとの主張に対し,出願人(O社)側は“
interference”なる文言を非技術的な意味合いで, 単に盗聴されない構成だとして用いているに過ぎず,干渉の
度合いを定義することまでは要求されなかった。
D)O社が“virtually”が無い場合の“free from interference”が,“virtually”がある場合とどの程度異なるかを立証で
きていない点について,本立証をせずとも, “virtually”の無い場合が“virtually”のある場合よりも好ましいことは,
当業者なら予測可能である。ならば,“virtually free from interference”が少なくとも盗聴のない状態で, その干
渉の度合が最も少ないのが,“free from interference”であると解釈すれば良い。従って,O社は上記立証までは
要求されなかった。
以上からCAFCは,両特許における“virtually free from interference”は明確な構成要件であり,特許法112条2項の要件を具備すると,結論した。
(横山 大輔)
