専門委員会成果物

WIPOがPATENTSCOPEにおいて新しい翻訳ツールを開発

 世界知的所有権機関(WIPO)は,特許文書用の画期的な新しい「人工知能」ベースの翻訳ツールを開発した。
  WIPO翻訳は,高度な技術特許文書を,従来の技術に基づいて構築された他の翻訳ツールよりも一般的な使用法をより密接に反映したスタイルと構文で第2言語にする最先端のニューラル機械翻訳技術を組み込んでいる。 WIPOは当初,中国語,日本語,韓国語の特許書類を英語に翻訳する新技術を「訓練した」。これらの言語による特許出願は,2014年に世界の出願件数の約55%を占めている。ユーザーはパブリックベータテストプラットフォームで中国語−英語の翻訳機能を試してみることができる。
 WIPO翻訳のこの画期的な進歩は,膨大な,そしてますます増加する特許書類が,インスピレーションや技術ノウハウのためにこれらの記録を検索するイノベーターにすぐにアクセスしやすくなることを意味する。 世界的な傾向の一環として,東アジア言語,特に中国語での特許出願がますます増加しており,WIPO翻訳は,これらの言語で作成された最先端の知識を可能な限り広く,迅速に共有するのに役立つ。
  中国語英訳の精度は,中華人民共和国知的財産庁のWIPO PATENTSCOPEデータベースに提供された中国の特許文書から6千万の文章を,米国特許商標庁へ出願された翻訳文と比較することにより行った,ニューラル機械翻訳ツールの訓練の結果である。WIPOは,フランス語の特許出願にニューラル機械翻訳サービスを拡張する予定であり,他の言語も適用される予定である。PATENTSCOPEデータベースは,インターネット上で自由に利用可能な他の翻訳エンジンと統合され,優れた言語で既存の統計ベースの翻訳技術を引き続き使用する。
 WIPOは,国際連合会議管理サービス,国際連合食糧農業機関,国際電気通信連合,国際海事機関,世界貿易機関,エイズ・結核・マラリアと闘うための世界基金など,他の国際機関と翻訳ソフト ウェアを共有している。国際連合(UN)のドキュメンテーション部門ディレクターのセシリア・エリザルド(Cecilia Elizalde)ディレクターは,「国連では,この革新的な分野のパートナーであるWIPOでニューラル機械翻訳の新しい展開に大きな関心を寄せています。我々の翻訳システムはWIPO翻訳の統計版と統合され,翻訳者は非常に便利だと思っています。今後数ヶ月間にニューラル版にアップグレードすることを楽しみにしています。」とコメントしている。
 今回のニューラル機械翻訳は新技術である。これは,以前に翻訳された文章から「学習」する巨大なニューラルネットワークモデルに基づいている。ニューラル機械翻訳の特異性(以前の「フレーズに基づく」 統計的方法と比較して)は,より自然な語順を生成し,日本語−英語や中国語−英語などのいわゆる遠隔言語のペアで特に改善が見られた。
  最近のテストでは,WIPO翻訳のニューラルベースの機械翻訳サービスは,遠隔言語のペアに関する以前の統計ベースのモデルと他のWIPO以外の翻訳サービスの両方を大幅に凌駕している。このWIPOツールは,より多種多様なテキストではなく,特許文書に特化した訓練を受けているため,高品質のレンダリングが可能である。WIPOは,オープンソースのソフトウェアとライブラリ(Nematus−Theano,AmuNMT)に基づいて独自のソフトウェアを開発し,大規模なデータセットを扱う社内の専門知識を活用した。

PCTニュースレター
http://www.wipo.int/edocs/pctndocs/en/2016/pct_news_2016_11.pdf

WIPOプレスリリース
http://www.wipo.int/pressroom/en/articles/2016/article_0014.html

WIPO事務局長のフランシス・ガリ氏による新しい翻訳ツール技術についての紹介動画
https://www.youtube.com/watch?v=fL1VCKWKj6U&feature=youtu.be

(参照日2017年1月18日)

(福冨 剛之)     

  
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