専門委員会成果物

欧州特許庁(EPO)の新審査ガイドライン(2016年11月改訂版)の運用開始

 11月1日,欧州特許庁(EPO)の新たな審査ガイドライン(2016年11月改訂版)の運用が開始された。今回の改訂では8つすべてのパートについて改訂がなされ,主な改訂として以下のものが含まれる。
-2015年11月1日に発効したモルドバ共和国との認証協定への対応(Part A),
-拡大審判部及び他の審判部による審決を考慮した改訂,
-Rule 2(1)EPC,および2015年11月10日付のEPO長官の決定に基づく電子的通信手段による出願書類の提出に
 関する改訂,
-Rule 82(2)EPCの訂正,および早期審査制度“PACE”への参加条件の変更を反映した改訂,
-審査部または異議部の公平性に関する記載の追加(Part E),
-コンピュータ実装関連発明に関する記載の追加(Part F,G),
-文言や参照する判例の明確化(PartH),
-ユーザーからのコメント及び提案の反映,
この中から,コンピュータ実装関連発明の改訂部分について以下のとおり紹介する。

 (1)コンピュータ実装関連発明のクレーム記載について(Part F-IV)
 ここでは,コンピュータに実装される発明は下記2つのタイプに分類され,かつそれぞれは下記のとおり審査されることが示されている。
タイプA:方法クレームのすべてのステップが,一般的なデータ処理手段により行うことが可能な発明(3.9.1)。この場合,方法クレームの主題が新規性あり(Novel)かつ進歩性あり(Inventive)とみなされる場合,その他の種類のクレーム(装置クレーム,コンピュータプログラムのクレーム)についても,新規性あり(Novel)かつ進歩性あり(Inventive)として取り扱われる。
タイプB:少なくとも1つの方法ステップが,特定のデータ処理手段,または本質的な特徴として他の技術的な装置を使用する発明(3.9.2)。この場合,特定の分野(医療機器,光学または 電気機構,「コンピュータ制御を使用して,操作するか,技術的または物理的実体と相互作用するステップ」を含む方法)においては,本発明がデータ処理ステップと物理的実体(センサ,アクチュエータなど)との間の相互作用を含み,かつこれらの物理的実体が本発明を実施するために不可欠である場合には,これら物理的実体は独立請求項に記載されなければならない。

 (2)コンピュータ実装関連発明に関する進歩性(Inventive step)評価について(Part G-VII)
 新たに5.4.2には,コンピュータ実装された発明に関する技術的および非技術的特徴を含むクレームの進歩性がどのように評価されるかについて以下の4つ具体例が示された。
具体例1(5.4.2.1):モバイル端末上でショッピングを行う方法に関して,進歩性が欠けていると判断されるもの。
具体例2(5.4.2.2):貨物運送の分野において需要と供給と仲介するためのコンピュータ実装方法に関して,進歩性が欠けていると判断されるもの。
具体例3(5.4.2.3):データ接続を介してブロードキャストメディアチャネルをリモートクライアントに送信するためのシステムに関して,進歩性が欠けていると判断されるもの。
具体例4(5.4.2.4):電子回路の数値シミュレーションを行う方法に関して,進歩性が欠けていると判断されるもの。

EPOオフィシャルジャーナル2016, A76(2016年9月30日)
http://www.epo.org/law-practice/legal-texts/official-journal/2016/09/a76.html

EPO審査ガイドライン
https://www.epo.org/law-practice/legal-texts/guidelines.html

(参照日 2016年11月18日)

(田村 重文)     

  
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