専門委員会成果物

WIPOがThe PCT Yearly Review, 2016 edition を公表

 世界知的所有権機関(WIPO)は,2016年8月7日のニュースレターにおいて,2015年にされたPCT出願および2014年にされたPCT国内移行について統計的に纏めたPCT Yearly Reviewを 公開したことを伝えた。このレビューには2016年3月16日のニュースリリースで伝えられたPCT出願の動向(2016年4月25日のJIPA Webサイト外国特許ニュースにおいて既報)に対して,より詳細な情報と分析が加えられている。本レビューにおける特別な調査テーマとして,出願人が自国以外に特許ファミリーを形成する際に,どの程度PCTルートを選択するか,パリルートを 選択するかを比較した調査が含まれている。

 この調査結果によると,2012年は全世界において約264,000件の国際的な特許ファミリー(ある国/地域の出願に対して少なくとも1つの他の国/地域での出願が含まれる集合。 以下,単に 「特許ファミリー」)が形成されたところ,その60%においてPCTルートが選択されていた。年間に形成される特許ファミリーの件数は,1990年代半ばから平均で約5.5%ずつ前年より 増加しているところ,PCTルートが選択されたものがパリルートより高い成長率で増加していた。PCTルートは平均で約10%ずつ伸びてきた一方で,パリルートは平均2.3%程度の伸びだった。

 また,特許ファミリーを多く有する基礎出願の出願国トップ5として,米国,日本,ドイツ,韓国,中国の動向に注目すると,世界全体の傾向に沿ってPCTルートが選択された特許 ファミリーの件数が増加しているが,2012年に形成された特許ファミリーにおいてPCTルートが選択された割合は,米国72.8%,中国64%,ドイツ60%,日本53%,韓国36%と,多岐にわたっていると言える。

 さらに,各特許ファミリーに含まれる特許の詳細調査として,特許ファミリーに含まれる特許出願(PCT国内移行を含む)がされた特許庁の数を調査している。この調査によれば,2010年は全世界において平均で3.8庁に対して,1件の特許ファミリーに含まれる特許出願が行われていることが分かり,平均の特許庁の数は,1998年に4.4庁でピークを示してから減少している ことが判明した。選択されたルートごとに確認すると,パリルートが選択された特許出願における特許庁の数の変動は,1998年の3.2庁から2010年の2.8庁への若干の減少である一方で,PCTルート についての変動は,6庁から4.6庁へというように大きく減少している。この傾向は,先述の5カ国でも同様の傾向であり,例えば韓国においては,PCTルートが選択された特許ファミリーに ついては,1994年には平均6.7庁の特許庁への出願が行われていたものの,2010年には平均して3.9庁の出願というように減少している。

 この結果は,国際的な特許ファミリーがより多数の特許庁へ出願されるほど,PCTルートがパリルートに比べて魅力的になるという一般的な考えだけでは説明がつかず,近年多くの 出願人が PCT出願における経済的な価値に目を向けていることを反映していると考察されている。この経済的な価値とは,国内移行前に出願人が受け取ることができる発明の特許性に関する情報や, PCT国際段階の後に国内移行をするかしないか,移行する場合はどの国の特許庁に移行するか,を検討するための十分な期間などである。

(PCTニュースレター)
http://www.wipo.int/pct/en/newslett/2016/article_0003.html

(The PCT Yearly Review, 2016 edition)
http://www.wipo.int/publications/en/details.jsp?id=4052

(参照日2016年8月29日)

(佐々木 暁嗣)    

  
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