専門委員会成果物

略式判決を許可した地裁の争点判断に再考を求め,出願記録から被告に不公正な行為はないと判断した事例

CAFC判決 2016年12月15日
U.S.Water Service, Inc., Roy Johnson v. Novozymes A/S, Novozymes North America, Inc.

[経緯]

[経緯]   U.S.Water Service, Inc.(U社)は破砕した穀物からエタノールを製造する方法を開示する特許(8,415,137)(’137特許)及び特許(8,609,399)(’399特許)の特許権者であり, Novozymes A/S(N社)らに対し,両特許の間接侵害を主張して地裁に提訴した。
一方,N社は非侵害の確認訴訟とU社特許の無効及びU社の不公正な行為に対して反訴し,略式判決の申立を行った。
地裁はN社の申立を部分的に認め’137特許の請求項1,6,12−13及び’399特許の請求項1−2,5−12,16−22,25,28−32,34−35が先行文献に本質的に内在(inherent) するため無効であると判断した。一方,地裁はU社の申立を不公正な行為とするN社の申立を拒絶した。
これに対し,U社及びN社は各々の主張に基づきCAFCに控訴した。
本事件の’137特許及び’399特許は共に特許8,039,244(’244特許)の継続出願であり,エタノール製造中にフィチン酸分解酵素フィターゼを添加することで 製造装置への付着物を低減又は防止する方法を開示する。地裁は先行文献である国際公報WO 01/62947 A1(“Veit”)又は特許(5,756,714)(’714)から,本願クレームが 本質的に予見可能であり,本件特許は無効であると判断した。

[CAFCの判断]

  1. 地裁は,先行技術との対比における「重要な問題点」は先行技術が本質的に「付着物を低減する目的でフィターゼを添加したか否か」であり,付着物の低減はエタノール製造におけるフィターゼの 添加から得られる自然な結果であることから先行文献は本質的に当該利点を開示すると判断し,無効の事実問題に争点はなく略式判決の許可は適切であったと結論付けた。
    CAFCは,陪審員が評決を覆すだけの被告側に有利な証拠も十分にあったと判断し,地裁判決に再考を求めた。
  2. 不公正な行為に関しては,U社が’244特許の侵害訴訟での証言又は判断及び’137特許での関連する部分の補正を意図的に隠し,審査官の特許査定を得たかが争点となった。
    地裁は,N社が訴訟情報の重要性又は欺く意図に関して真の争点を立証しておらず不公正な行為は認定できない,また審査官は補正の意図を十分認識し第三者提出物(特に“Veit”)に対する特許性も 検討していることからU社に不公正な行為はなかったと判断した。
    CAFCは,出願記録に訴訟中の事件の記載及び審査官が第三者提出物を含む先行技術を検討した旨の記載があることから,不公正な行為に関し本質的な争点はないとする地裁の判断を支持しN社の主張を退けた。

(加藤 義裕)

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