専門委員会成果物

控訴後の基準の変更は,必ずしも地裁への審理差し戻しを必要としないとされた事例

CAFC判決 2016年12月13日
Medgraph, Inc. v. Medtronic, Inc.

[経緯]

  Medgraph, Inc.(A社)は,患者の診断および治療に関する特許(5,974,124)(’124特許)の権利者である。’124特許は,測定装置によって患者の体から取得したデータを中央記憶装置へ転送し,当該データへ医療従事者がアクセスすることを可能とする発明である。
 Medtronic, Inc.(B社)は,糖尿病を管理するための種々のソリューションを提供している。A社は,B社の提供するソリューションが’124特許を侵害しているとして地裁に提訴した。地裁は非侵害の略式判決を下し,これに対してA社はCAFCへ控訴した。
  なお本事件と並行して,Akamai Technologies, Inc.とLimelight Networks, Inc.との間で争われた侵害訴訟(以下「Akamai事件」とする)に関して,最高裁からの差し戻し審がCAFCで審理されていた。 Akamai事件の差し戻し審において,CAFCのパネル判決では直接侵害が認められなかったが,その後のCAFC大法廷では直接侵害の基準が拡張され,直接侵害が認められた。新たな基準では,被疑侵害者が方法クレームの一部のステップを実施していなくとも,行為への参加又は利益の享受の条件として第三者に当該ステップを実施させた場合は,被疑侵害者の直接侵害が認められることとなった。

[CAFCの判断]

  本事件における地裁の略式判決は,Akamai事件の差し戻し審におけるCAFCのパネル判決後,かつCAFC大法廷の判決前であった。つまり略式判決の前後で直接侵害に関する基準が変更されていた。
 そのためA社は,基準の変更を理由に,地裁の判決を無効にして審理を地裁へ差し戻すべきであると主張した。
 これに対してCAFCは,基準が変更された場合,通常は審理を差し戻すことが適切であると認めつつも,B社が第三者(患者や医療従事者)に対して方法クレームのステップの実施を行為への参加又は利益の享受の条件としていることを示す証拠をA社が示していないことや,新たな証拠を発見する手段をA社が特定していないことを理由に,審理を地裁へ差し戻すことなく,地裁の判決を支持した。

(仲井 智至)

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