専門委員会成果物

IPR手続きにおける特許請求項のBRI(Broadest Reasonable Interpretation)を逸脱し法的に不適切な解釈にまで広げたとして,PTABのクレーム解釈を破棄し,PTABに差し戻した事例

CAFC判決 2016年12月22日
John D’Agostino v. MasterCard International Incorporated

[経緯]

 John D’Agostino(D氏)は,2件の’486特許及び’988特許(’486特許の継続特許)を所有する。2件の特許は,顧客によるクレジットカードでのグッズやサービスの購入の際,業者に与えられる 取引コードの生成プロセスを開示しており,2件の特許の目的は,業者から顧客のクレジットカード番号へのアクセスを最小限に抑え,安全性を高めることにある。
  MasterCard International Incorporated(M社)は,PTABにD氏の2件の特許を無効とする先行特許であるCohen(’462特許)及びMusmanno(’243特許)と共にIPRを申し立てた。PTABは,争われている請求項について,先行特許を用いて新規性欠如及び自明性に基づき特許性がないとし,無効としたため,D氏は控訴した。

[CAFCの判断]

 特許クレーム:取引業者と特定する前に,1つの業者(a single merchant)に限定された取引であること示す取引コードが要求される。
 Cohenの開示:顧客は,最初にチェーン店(例えばTarget)を特定する取引コードを求め,その後,そのチェーン店の中から特定の店舗を指定する。
PTABの解釈:Cohenに開示されたプロセスが,特許クレームの“1つの業者”に限定された取引であることを示す取引コードを要求するステップを含むとした。
 CAFCは,実施例及び審査履歴等を参照し,
  1. 特許クレームにおける「取引が1つの業者に限定される」との限定は,数値限定(取引相手を「1」業者とする)というもので,Target等,取引相手を特定するものではないので,Cohenはクレーム範囲外である,
  2. Targetが1つの店舗であったとした場合,特許クレームは,取引業者を特定する前に店舗数を1つの店舗に限定する(上記数値限定)と限定しているので,店舗数を限定することなく,店舗を特定することはクレーム範囲外である,と判断した。
 CAFCは,IPR手続における特許請求項のBRIは常に特許明細書に照らし合わせてされるべきであり,また特許の審査履歴も考慮されるべきであるとし,本件のPTABによる請求項の文言解釈は,これらから排除されている結果を包括するほど広く解釈されているとして,2つのIPR手続きにおいて,争われている請求項について特許無効としたPTABによる決定を棄却し,PTABに差し戻した。

(髙野 舞子)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.