専門委員会成果物

補正されていないクレームに対しても,審査経過禁反言を認定した地裁判決を支持した事例

CAFC判決 2016年9月8日
UCB, Inc. v. Yeda Research and Development Co., LTD.

[経緯]

 UCB, Inc.(U社)は,Yeda Research and Development Co., LTD.(Y社)が保有するモノクローナル抗体特許(6,090,923)を侵害していないことの確認を求め,地裁に提訴した。
 ’923特許は,細胞毒素に対するモノクローナル抗体に関し,クレーム1に記載のモノクローナル抗体が,U社製品Cimzia®のキメラ抗体やヒト化抗体を含むか否かが争点となった。
 Y社は,’923特許の審査過程で全クレームをマウス抗体に限定することにより引例との差別化を図ったが,その後,マウスへの限定は不要である旨陳述し,抗体を限定しないクレーム 41,42,及び特定の動物種の抗体やキメラ抗体等に特定したクレーム45〜48を追加した。
 審査官は,クレーム41,42は実施可能要件違反,クレーム45〜48は新規事項追加を理由に拒絶したが,Y社による反論や陳述の結果,実施可能要件については認められ,クレーム41が補正されることなくクレーム1として登録となった(クレーム45〜48は削除)。
 地裁は,審査経過を参酌すると,クレーム1に記載のモノクローナル抗体に,キメラ抗体やヒト化抗体を含めた解釈は禁じられるべきと判断し,U社製品は非侵害とした。

[CAFCの判断]

 Y社は,地裁のクレーム解釈は誤っており,クレーム1に記載のモノクローナル抗体は特定の動物種やキメラ抗体等で限定されていないため,出願時に公知のキメラ抗体やヒト化抗体を 含めて解釈すべきと主張した。
 CAFCは,特許中の各クレームは,それぞれ特有の事実や審査経過を基に独立して解釈されるべきであるが,原則として,出願人が審査段階で要求し,審査官から拒絶され,その後出願人によって取り下げられた範囲は,特許を受けることができないと判示し,Y社主張を退け地裁の判断を支持した。

(清水 一朗)

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